2011 Fiscal Year Research-status Report
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23650271
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
柳川 弘志 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (40327672)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田畠 典子 慶應義塾大学, 理工学研究科, 准教授 (60260080)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | iPS細胞 / がん幹細胞 / in vitro virus法 / CD44 / CD138 / in vivo imaging |
Research Abstract |
CD44は肺がん、脳腫瘍、乳がん、膵臓がん、骨髄腫などのがん細胞や、肺がん、大腸がん、白血病、前立腺がんなどの幹細胞の特異的表面抗原として知られている。CD44と高分子量ヒアルロン酸(HMWHA)との結合を特異的に阻害することのできる一本鎖抗体の超高効率なスクリーニングをマイクロ化学チップを利用したIVV法により行った。一本鎖抗体のIVVライブラリー存在下高分子量ヒアルロン酸(HMWHA)コーティングプレート上に接着できない人工癌幹細胞からIVVを回収する方法でスクリーニングを行った後、さらにCD44の野生型(CD44W)の細胞外領域をマイクロ流体チップに結合させて抗CD44W抗体のスクリーニングを行った。合計6ラウンドスクリーニングした結果、32個のクローンの内4種類の重複した配列を得た。この内の2つのクローン(AXD6-12-54、AXD6-12-51)は、人工癌細胞のHMWHAコーティングプレートへの接着を阻害した。阻害活性の高いAXD6-12-54は、免疫染色では人工癌細胞の細胞表面を検出することができ、人工癌幹細胞の遊走活性を阻害した。マウス肉腫から抽出した基底膜を使った人工癌細胞の浸潤活性も阻害した。また、CD44の細胞外領域に対する親和性を測定した結果、解離定数(Kd)は1.6nMと見積られた。さらに、人工癌幹細胞より抽出した膜画分を電気泳動しウエスタンブロットを行い、AXD6-12-54で染色した結果85kDaの単一バンドが検出され、市販の抗CD44抗体を用いた場合と同一のバンドだった。以上の結果より、AXD6-12-54は抗CD44抗体であり、癌幹細胞と高分子量ヒアルロン酸との相互作用を阻害し、ニッチを制御する抗体であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我か国では、がんによる死亡者数は戦後一貫して増加している。現在、国民のおよそ3人に1人はがんにより死亡しており、近い将来、国民の約半数が死亡するという予測もある。がん治療を困難にしている最大の原因の1つとして、主に使用されている薬物が、増殖相にある細胞の死滅を狙った細胞傷害性抗がん剤または増殖シグナルを特異的に遮断する分子標的薬剤であり、それらは一時的に増殖能が高く最終的には増殖を停止する非がん幹細胞(progeny)には有効であるが、増殖が遅く自己複製能を持つがん幹細胞に対する効果は低いことが挙げられる。がんの薬物治療や外科手術による除去後、このがん幹細胞が完全に除かれず残存することががん再発の原因と考えられており、腫瘍形成の根本となるがん幹細胞を標的とした新たな診断と治療の出現が望まれている。 本研究では、これら申請者独自の抗体作製および標識技術を用いて、がんやがん幹細胞特異的な表面抗原に対する高い親和性と特異性を有するscFvを作製し、そのC末端を放射性同位元素でラベル可能な配位子でラベル化し、最終的に放射性同位元素でラベル化できる手法の確立を目指す。平成23年度は、肺がん、脳腫瘍、乳がん、膵臓がん、骨髄腫などのがん細胞や、肺がん、大腸がん、白血病、前立腺がんなどのがん幹細胞の特異的表面抗原として知られているCD44と高分子量ヒアルロン酸(HMWHA)との結合を特異的に阻害することのできる一本鎖抗体のスクリーニングをIVV法により行い、CD44に強力に結合し、癌幹細胞の接着を阻害する一本鎖抗体を得ることができた。それ故、本研究の目的に合致した成果は得られたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)IVV法による一本鎖抗体(scFv)の超高効率な選択:CD138(Syndecan-1)は多発性骨髄腫細胞の特異的表面抗原として知られている。平成24年度は、CD138の細胞外ドメインを抗体選択の抗原として用いる。まず、CD138の細胞外ドメインをCHO細胞で強制発現させて調製する。前年度に確立した実験条件に基づき、この抗原をマイクロ流体チップに固定し、ヒトおよびマウスのnaïveと変異導入抗体ライブラリーから抗CD138抗体のスクリーニングを行う。得られた抗体をCHO細胞で強制発現させ、抗原との結合や解離定数(Kd)をELISAやBiacoreで測定する。また、得られた抗体の患者由来の種々の多発性骨髄腫細胞の表面への特異的な結合を検証する。(2)C末端ラベル化法によるscFvの蛍光ラベル化:これまでに確立したタンパク質のC末端ラベル化条件(Genome Res., 12, 487, 2002)に基づき、Alexa594-dC-ピューロマイシンと得られたcD44とCD138に対するscFvのmRNAを、小麦胚芽抽出液の無細胞翻訳系またはCHO細胞培地に投入して、蛍光標識scFvを調製、精製する。(3)蛍光ラベル化scFvの担がんマウス投与と体内動態の画像化:ヒト患者由来の各種骨髄腫細胞を移植した担がんマウスを作製する。このマウスに上で調製した蛍光ラベル化したscFvを注射し、4D多光子励起in vivo imagingによりがん細胞への集積を画像解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
抗原として使用する細胞外ドメインを調製するためのCHO細胞の培養装置やIVV法で抗体を選択するためのPCR、Real-time PCR、シーケンサーや抗原と抗体の結合の親和性を測定するBiacoreなどの主要設備は既に揃っているため、消耗品費が最も大きなウェイトを占める。 消耗品費として、2年目に様々な条件でIVV法でマイクロ流体チップ上で一本鎖抗体を選択するために必要な費用は、以下の通りである。 まず、分子生物学実験の試薬類の内訳は、抗体の鋳型DNAを構築するためのオリゴDNA、DNAポリメラーゼ、DNA精製キット、DNAからmRNAを調製するためのRNAポリメラーゼ、RNA精製キット、mRNAを翻訳してIVVをつくるために必要な無細胞タンパク質合成系、抗体選択に必要なマイクロ流体チップ、タンパク質を検出するための蛍光標識抗体、蛍光物質で抗体のC末端をラベル化するためのラベル化剤の合成、その他バッファーやゲルなどの試薬類の費用を含めた合計額を計上している。 平成24年度に予算を繰り越した理由は、平成23年度の前半に抗体ライブラリーの構築を終え、抗CD44抗体のスクリーニングを行う予定であったが、抗体ライブラリーの構築に思ったより時間がかかり、抗体のスクリーニングの研究が後半にずれ込んでしまったため、抗体のラベル化とin vivo imagingの研究が遂行できなかった。平成24年度には、この抗体の蛍光ラベル化とそれを用いてのin vivo imagingに次年度からの予算を使用する予定である。
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[Book] Chemical Synthetic Biology2011
Author(s)
Nobuhide Doi, Koichi Kakukawa, Yo Oishi, and Hiroshi Yanagawa
Total Pages
8
Publisher
High solubility of random-sequence proteins consisting of five kinds of primitive amino acids
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