2011 Fiscal Year Research-status Report
エックス線位相差断層像を用いた生体機能評価法の確立
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23650277
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Research Institution | Kawasaki Medical School |
Principal Investigator |
毛利 聡 川崎医科大学, 医学部, 教授 (00294413)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橋本 謙 川崎医科大学, 医学部, 講師 (80341080)
氏原 嘉洋 川崎医科大学, 医学部, 助教 (80610021)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | X線位相差CT / 国際情報交流(英国) |
Research Abstract |
X線は臨床分野でも単純X線写真やコンピュータ断層撮影(CT)といった形で広範に応用されている。これは物質にX線が照射されたときの吸収の差を利用して画像構成を行うものであり、炭素、水素、窒素、酸素などの軽元素からなる生体軟部組織、例えば筋肉と血液などのコントラストを得ることは出来ない。本研究で開発しているX線位相差CTは、X線が物質を透過する際に生じる位相のシフトを検出して画像化するものであり、軟部組織を詳細に描出することが出来ると共に、内部の密度定量が可能となる。また、X線位相差CTは組織の形態だけでなく、それぞれの部位の密度情報を合わせて得る事が可能で、しかも微細な検体の構造を高い解像度で描出することができる。我々は、電子線リソグラフィーを用いて作成された回折格子型のX線干渉計を用いた本システムの計測対象として、生体内で組織密度を機能として用いている器官:水晶体を選んだ。光は密度の高い物質に進入するさいに大きく屈折するため、水晶体は高濃度のタンパク(クリスタリン)を有しており、眼内に入射した光を網膜に結像するためには水晶体の形および密度と、強膜によって形成される眼球の形状を正常に評価することが必要となる。また、水晶体は内部の密度が高く、周辺部は低いことが知られていたが、これを位置情報も含めて可視化する方法は無かった。今回の開発研究で、水晶体密度分布の定量化を可能にして眼内に入射する光路評価に成功した。ヒトの眼球サイズまでの計測系構築には至っていないが、マウスなど小動物の全眼球を用いて10分程度の短時間で簡便に撮影出来る方法を確率した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
X線は物質の電子に衝突して位相差が生じるが、電子密度は原子核重量と比例するため、通過する距離あたりの位相変化量は物質密度と高い相関を示す。この相関を実験的に検証する為に、濃度既知の食塩水4種類と蒸留水、そしてポリプロピレンにてキャリブレーションを行い生体の軟部組織の密度が分布すると考えられる範囲で、理論値と計測値の間に非常に高い相関が得られ、計測系の信頼性を確認することが出来た。計測では試料を水浸して撮影することになるが、試料サイズに合わせたセルの作成を行った。正確な濃度評価のためには溶媒の比重を水晶体と同程度にしてマウス眼球で迅速に計測可能な至適撮影条件の検索とアプリケーション構築を確立出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
病態モデルや眼球以外の臓器撮影への応用1) 眼瞼被覆近視モデル・糖尿病性白内障モデル等による水晶体評価:近視は眼軸長が正常よりも短く、網膜状に結像しない病態であるが、一方で正常眼軸長の症例も報告されている。このような症例では水晶体の屈折異常の可能性もあるが、評価方法が無いため、全く検討されてこなかった。また、糖尿病の合併症として白内障はよく知られているが、電解質異常を来した症例では水晶体変性による急激な近視化を認めることがある。本研究ではストレプトゾシン投与による糖尿病性白内障モデルを作成し、水晶体内タンパク濃度分布を評価して病態生理解明の一助としたいと考えている。これまでに水晶体非破壊検査による検討はなされていないため、病態モデルにおける水晶体体内タンパク濃度分布の可視化はこれまでに無い新しい情報を提供できる可能性があると考えている。更に、水晶体成長過程におけるCa2+制御の重要性を解明するために水晶体線維細胞に発現するNa+/Ca2+ 交換体の遺伝子操作マウスについて検討する。2) 機械的負荷への心臓の機能適応評価:過大なメカニカルストレスが掛かると心筋細胞は肥大して増大した仕事量に対応すると共に、心室の形態を変化させて心臓機械特性を制御して応答する。近年心筋量を増大させる分子メカニズムが明らかにされてきたが、圧力負荷や容量負荷といったメカニカルストレスの種類を感知して環境に適合した心室形態を構築する仕組みについては全く不明である。本研究でのX線位相差CTによる形態と内部タンパク(アクチン・ミオシン)評価法を大動脈結紮モデルマウス心臓に応用して、心肥大のメカニズム解明に新たな視点から取り組む。(左図は心臓のX線位相差CT:心室内の局所的濃度差や心房と心室の密度差を検出出来る。)
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
SPring-8におけるX線位相差CT撮影のための消耗品(計測セル作成、液体窒素など)正常マウス、Na-Ca交換体トランスジェニックマウス等、モデル動物による検体作製費、記録用媒体(DVD)購入学会発表(Biophysical Society 57th Annual Meeting)論文発表
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Research Products
(1 results)