2011 Fiscal Year Research-status Report
ラマンスペクトル計測による細胞分化ダイナミクスの検出
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23650280
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
佐甲 靖志 独立行政法人理化学研究所, 佐甲細胞情報研究室, 主任研究員 (20215700)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 細胞状態 / 細胞分化 / ラマン分光 / 顕微計測 |
Research Abstract |
生細胞のラマンスペクトル計測に基づいて、細胞状態を定義し、状態遷移則を明らかにする方法を開発しているラマン分光法は無染色・非侵襲な多次元計測法であることから、単一細胞の時間変化を追跡できるという、他の細胞状態計測法にない優れた特徴を有している。 ヒト乳ガン由来の培養細胞MCF-7は、培地へのheregulin (HRG)添加によって、脂肪滴の蓄積、アルブミン分泌など、乳腺細胞様の性質を持つ細胞へ分化する。分化過程の時系列に沿って、細胞質、細胞核のラマン分光スペクトルを取得し、ダイナミクス解析を行った。HRGによる分化は10日~2週間に及ぶ過程である。HRG添加前(0日)、添加後1,3,6,12日の多数の細胞からスペクトルを取得し主成分分析を行うと、第1~3主成分で張る3次元空間において、0日と12日の細胞群間はほぼ完全に分離していることがわかった。また、第7主成分までで95%程度のスペクトル情報を表現できた。そこで、0日目のデータ群をモデルとしたsoft independent modeling of class analogy (SIMCA)法で分化時系列の相図を描いた。SIMCA法では、多次元スペクトルデータをモデル群との成分量差を表す横軸と、新成分の量を表す縦軸の2次元に圧縮表示できる。相図上で分化過程は行きつ戻りつし、また、中間段階で大きなばらつきを示すなど、分化過程が単調な変化でないこと、細胞間の経路あるいは速度に違いがあることなどを示唆する結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究目標は、(1)ラマン分光顕微鏡の制作、(2)細胞計測条件の検討、(3)ラマンスペクトル計測と解析法の開発の3項目であった。(1)に関しては、倒立顕微鏡型の分光顕微鏡を自作し、生細胞内の1立方マイクロメートル程度の体積から10~30秒で以下の解析に足るスペクトルを得ることができている。また、1軸の光学スキャナを導入し、x-スペクトルを得る準備ができた。(2)に関しては、単一のMCF7細胞から細胞損傷を押さえて15分間隔で時系列データが取得できることを確かめた。分化ダイナミクスの計測には十分な時間分解能である。(3)に関しては、SIMCA法で分化ダイナミクスが描けることが明らかになった他、時間変化する波数領域を鋭敏に捉えるための一般化2次元相関分光法や、細胞ごとの分化ダイナミクスを調べ、状態分岐や統合をプロットする方法を開発した。以上のように研究はおおむね順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまでに得られた状態遷移ダイナミクスは、細胞集団レベルの振る舞いである。平成24年度は、単一細胞のダイナミクスを計測・解析する。計測条件、解析法はほとんど確立しているので、実際の実験データ取得と解析が課題である。細胞状態遷移の経路、細胞間のばらつき、細胞内オルガネラ(細胞核、細胞質、細胞膜等)毎の差異等に注目して、ダイナミクス解析を行う。各々の細胞分化反応に特徴的な、あるいは両者に共通するダイナミクスを抽出する。ラマンスペクトルに基づいて、各々の細胞が分化するか否か、どの細胞腫に分化するか、いつ分化するかを予測することを目指す。MCF7細胞の分化経路では、共同研究者によって細胞集団レベルでの遺伝子変動解析が行われている。ゲノムのダイナミクスと、ラマンスペクトルのダイナミクスを比較検討して、分化経路を規定する遺伝子群推定を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主として、細胞培養のための器具・試薬等の消耗品、研究成果発表や情報収集のための交通費に使用する。
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[Journal Article] Live cell single-molecule detection in systems biology.2011
Author(s)
Sako, Y., Hiroshima, M., Pack, C.-G., Okamoto, K., Hibino, K., and Yamamoto, A.
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Journal Title
WIREs Systems Biology and Medicine.
Volume: 4
Pages: 183-192
DOI
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