2011 Fiscal Year Research-status Report
バイオ人工肝臓システムへの利用を目指した肝分化誘導型スーパー細胞の開発
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23650289
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
上平 正道 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40202022)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 生物・生体工学 / バイオテクノロジー / 発現制御 / 肝特異的転写因子 / バイオ人工肝臓 / ヘパトーマ |
Research Abstract |
バイオ人工肝臓システムに用いるために、ヘパトーマ細胞や肝実質細胞から誘導した人工多能性幹細胞から、高い肝機能を人工的に誘導可能な細胞株を作製することを目的として研究を行った。本年度は、まず肝細胞で発現しており、肝特異的な遺伝子発現に関与することがわかっているHNFファミリーやC/EBPファミリーといった転写因子群の遺伝子として、HNF-1α, 1β, 3β, 4α, 6αとC/EBP-α, β, γの8種類の肝特異的転写因子の遺伝子をクローニングし、ウイルスベクター上に薬剤誘導できる発現ユニットとして導入し、このウイルスベクターを種々の組み合わせにより、マウスヘパトーマHepa1-6細胞に感染させ、どの転写因子の組み合わせが肝機能を高発現させるために必要であるかについて検討した。その結果、8種類全ての遺伝子を導入したもので誘導発現を行うと最も肝機能が高くなった。クローニングによりスクリーニングを行い、高肝機能を誘導できる遺伝子導入ヘパトーマ細胞株を樹立した。樹立したヘパトーマ細胞では、薬剤非添加の条件では親細胞と同等の増殖性を示したが、薬剤添加による転写因子遺伝子の誘導発現によって、細胞増殖が停止し、細胞形態が上皮様に変化した。薬剤添加によって、アルブミン分泌能、アンモニア除去能、尿素合成能、チトクロームP450活性などの各種肝機能の著しい上昇が転写レベルおよび機能発現レベルで観察された。とくに肝細胞の解毒代謝機能として重要なチトクロームP450活性において、親細胞の約千倍となり、生体内から採取した初代肝細胞とほぼ同レベルの活性を示した。以上の結果より、本研究で樹立した増殖と肝機能発現を切換え可能なヘパトーマ細胞は、バイオ人工肝臓システムや肝機能評価において有用な細胞になりうると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
8種類の肝特異的転写因子の遺伝子をマウスの肝臓組織よりクローニングし、レトロウイルスベクター生産用のプラスミドにそれぞれの遺伝子を薬剤添加によって誘導発現可能な発現ユニットとして組み込んだ。このプラスミドを用いてウイルスベクターを生産したところ、非常に高力価のウイルスベクターを生産できることがわかった。このウイルスベクターによって、マウスヘパトーマHepa1-6細胞に遺伝子導入を行い、肝特異的転写因子の発現を薬剤で誘導ができるように制御できるヘパトーマ細胞の樹立に成功した。この細胞では、ヘパトーマ細胞が元来有している増殖能力に加えて、外から導入した肝特異的転写因子遺伝子群を薬剤添加によって誘導発現することによって、ヘパトーマ細胞を高い肝機能をもった分化状態に変化させることが可能であり、当初本研究で考えていた細胞機能改変の方法論が有効であることを実証できた。よって本研究では、おおむね順調に研究が進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
得られた細胞株の有用性をさらに評価するための検討を行う。そのために、肝機能発現誘導のための薬剤添加濃度やタイミング、1か月以上の長期培養、スフェロイドなどの組織体を誘導した場合の機能維持について、これまで肝機能として評価してきたアルブミン分泌能、アンモニア除去能、尿素合成能、チトクロームP450活性を調べることによって明らかにする。また、これまでは動物実験による細胞株の有用性を評価することを意識して、マウス由来ヘパトーマ細胞を用いた検討であった。本研究によるヘパトーマ細胞の機能改変の考え方が、ヒト由来のヘパトーマ細胞においても適用可能であるかについて明らかにすることを目的として、ヒト由来ヘパトーマ細胞であるHepG2細胞を用いて同様のアプローチにより高い肝機能を誘導することができるかについて検討する。その際、十分な肝機能が得られない場合には、肝特異的転写因子の種類を増やすことも考慮に入れる。初代肝細胞からiPS細胞を誘導し、iPS細胞からの転写因子発現制御による肝細胞誘導についても検討する。さらに、樹立した細胞株を使ったバイオ人工肝臓システムへの応用の可能性を検討するために、細胞固定化バイオリアクターの作製を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費としては、細胞培養、遺伝子組換え実験および肝機能評価に必要な試薬の購入に使用する。また、学会などで研究成果の報告を行うための旅費に使用する。
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