2011 Fiscal Year Research-status Report
薄暗い視覚環境下での姿勢調節機構の低下の解析と臨床評価指標の開発
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23650321
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
内山 靖 名古屋大学, 医学部, 教授 (90302489)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 姿勢調節 / 照度環境 / 理学療法 / 前庭刺激 |
Research Abstract |
薄暗い視覚環境下での姿勢調節機構を明らかにすることを目的として、次の2つの研究を実施した。 第一に、照度の異なる500lx,50lx,5lx,1lx,0lx並びに遮眼において、静的立位保持並びに段差昇降を行い姿勢制御の緻密さを示す足圧中心点の単位面積軌跡長を比較した。その結果、暗所(5lx以下の照度)ならびに遮眼では、明所(500lx,50lx)と比較して姿勢調節の微細さが有意に低下していた。とくに、0lx開眼では暗所遮眼に比べて有意な調節機構の低下が明らかとなった。次に、照度を変化させた際の順応を分析したところ、徐々に暗くした場合には1lxで単位面積軌跡長が最小(姿勢調節の微細さが損なわれた状態)となり、むしろ0lxで回復した。一方、徐々に明るくしていった場合には特定の変化はみられなかった。また、段差の昇降では、降段動作において1lxで姿勢調節機構が最も低下した。第二に、ステッピングモータによって頭部回旋による前庭刺激を他動的に与えた際の姿勢調節機構について分析した。その結果、若年者では他動的な刺激が外乱となっていたが、高齢者では自動的な回旋運動が内乱刺激となり姿勢調節機構が破綻することが明らかになった。また、前庭刺激の影響は高齢者では少なくとも30秒間は残存していることが明らかとなった。これらの結果から、薄暗い環境下では、とくに、徐々に暗所となるような環境では不確実な視覚情報処理が継続されることで、むしろ遮眼よりも不安定な姿勢となることは、日常生活における薄暗い廊下への移動などでの転倒事故の要因となるえる可能性が示唆された。また、頭部回旋による前庭刺激においては、高齢者が振り向き動作などの自動的な運動で姿勢調節機構の低下が顕著であり、これに照度環境が加味されることでさらに不安定な姿勢となり得る可能性が推測できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで、薄暗い環境下における立位姿勢機構を詳細に検討し、暗所開眼(5lx,1lx,0x)では明所開眼(500lx,50lx)と比較して姿勢調節の微細さ(単位面積軌跡長)が損なわれていることを明らかにした。このことは、本研究課題のリサーチクエスチョンに対する根幹的な回答といえる成果である。 とくに、徐々に暗くなる環境においては視覚情報が適切に処理されないことが示された。また、昇段時に比べて降段動作では照度環境が姿勢調節に与える影響が大きいことが明らかになった。これらの結果は、日常生活におけるバランスならびに転倒の危険となりえる要因として、臨床実践における評価指標を作成する際に具体的な示唆を与えるものである。 また、頭部回旋による前庭刺激が姿勢調節に与える影響については、高齢者と若年者とでは反応が異なることが明らかとなった。高齢者で自動的な頭部回旋が大きな内乱刺激になることは、自動的な振り向き動作やバランス練習をすることが感覚ー運動連関の再教育に有用であることを示唆し、今後さらに照度環境を加味する解析を行う上での重要な基礎資料となる。 以上のことから、現在までに本研究課題は順調に進展し、おおむね期待された分析と成果が得られている。さらに、傍証的な研究の追加と継続ならびに有病者に対する研究を実施することで、一層の成果が期待できる。同時に、安全かつ効果的な理学療法介入を実施するうえでの基礎的な資料と、今後の研究を進展するための基礎データの取得と安全かつ実用的な実験プロトコールを確立できた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、薄暗い環境が姿勢調節機構に及ぼす影響について、静的な立位保持や支持基底面を移動しない頭部回旋に加えて、動的な歩行において明らかにしていく。具体的には、歩行の時間空間的因子を連続的に計測し、恒常性と安定性について検証していく。特に、平地歩行と障害物を置いた際の跨ぎ動作を行う課題に対して、予測的な姿勢調節と反応的な姿勢調節について照度の影響を検証する。これについては、すでに予備的な実験は終了し、実際の研究を実施するための準備がおおむね整っている。 頭部回旋による前庭刺激では照度の変化ならびに遮眼による影響を明らかにするとともに、日常生活に類似した振り向き動作について予測的姿勢調整(anticipatory postural adjustment)と動作反応について詳細な解析を進めていく。 上記の課題について、足底感覚の冷却や振動刺激を与えることで体性感覚への外乱刺激を与えた際の影響についても相互に検証していく。また、有意味な安全性の高い検査を抽出して有病者における反応を定量的に分析し、臨床的なバランス評価指標の作成とさまざまな動作・活動と比較する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
歩行を計測する際に必要な時間空間的な因子を計測できる小型機器、広い範囲の照度環境を調節するための消耗品に加え、研究補助者・協力者等への謝金、最先端の知見の情報収集並びに成果を発表するための外国・国内旅費、そのほかに必要な用具等について研究費を用いる予定でいる。
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Research Products
(3 results)