2012 Fiscal Year Research-status Report
使いやすい福祉用具開発を目的としたユニバーサルデザインの概念の数理モデル化
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23650351
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
川中 普晴 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30437115)
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Keywords | ユニバーサルデザイン / 福祉用具・支援機器 / リハビリテーション / 福祉工学 |
Research Abstract |
平成24年度は,昨年度に引き続き把持体の三次元ポリゴンデータから「握りやすさ」を決定づけるための要因となるもの(把持特徴ベクトル)の抽出方法について検討するとともに,抽出された把持特徴ベクトルの各ユーザにおける傾向について分析し,数理モデル構築のための研究を進めた. これまでの研究成果(平田らの方法)を用いて3次元データを2次元画像に変換し,把持によって印象材が変形した度合いを濃淡にした画像を作成した.次に,これらの画像から特徴を抽出するためのシステムを新たに作成し,各指の基節領域,中節領域,末節領域(親指のみ基節領域と末節領域を使用)をそれぞれ楕円で近似した.実際に印象剤を握って得られた把持体データ(30例)を採取し,それらのデータを対象に各楕円の中心点と両端点に対応するポリゴンデータ(各頂点の座標と法線ベクトル)と深度値を抽出した.抽出結果から,親指を起点とした各指への方向ベクトルと各指間の距離といった情報を算出するとともに,それらを用いて把持特徴ベクトルを作成した.得られた把持特徴ベクトルに対してクラスタリングを適用し,把持の傾向に対する分析を行った. 実験の結果,対象とした30例の把持体データを大きく4つの把持傾向(クラスタ)に分類することができた.この結果は,把持の際の指の位置関係や方向といった把持特徴は,大きく4つのパターンに分かれることを示唆していた.また,それぞれのクラスタに分類された把持体には定量的・定性的にも共通した傾向が見られた.これらの結果から,各クラスタの把持体データにはそれぞれ共通項となる特徴が存在することが示された.また,その共通項は握りやすい把持体を設計する際に重要な要素となる可能性が高いという結果も得られた.さらに,手がどのくらい把持体をカバーしているかによって,把持力と指の関係が変化するという数値的な知見も得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度には,把持体の三次元ポリゴンデータの凹凸分布の分散を分析することにより,ユーザ間で把持特徴の違いが顕著に表れる部分を特定することができた.また,それら特定された部分(末節領域)を抽出する方法についても提案し,その有効性を示すことができた.平成24年度では,昨年度に得られた研究成果を活用し,把持体分析のためのソフトウェアを開発した.さらに,作成したソフトウェアを用いて実際の把持体データを対象とした把持特徴ベクトルの抽出実験を行い,得られた特徴ベクトルの傾向について分析・検討した.得られた結果は,数理モデルを構築するための重要な傾向を示していると考えられ,今後のモデル構築に大きく貢献する知見が得られた. 今年度に得られた研究結果については,人間工学会の第53回大会(全国大会)をはじめとする複数の学会にて発表することができた.人間工学会東海支部大会では,各指からの特徴量抽出方法に関する内容,ならびに把持傾向と把持体形状の関係性に関する内容(計2件)に関する研究成果発表を行うことができ,参加者の先生方からも高い評価をいただいた.今後,新たなる共同研究やプロジェクトへの発展についても期待できる結果となった.なお,昨年度予定していた国際会議や論文投稿については,投稿準備が遅れているため,24年度中に投稿することができなかった.これは,上記のソフトウェアの開発とデータ採取に時間を要したためである.これらについてはすでに投稿の準備は完了しており,5月末を目処に投稿する予定となっている.現在,他の国際会議にも投稿するよう準備を進めるている段階である.また,昨年度はモデルの試作や評価実験も試行的にしか実施できなかったが,25年度には本格的な実験ができるよう準備を進めている段階である. 以上の内容を勘案すると,当初の計画と比較して「概ね順調に進展している」と判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度も引き続き,握り型の象り作業と三次元ポリゴンデータの作成を進めていく.現在,研究・分析に使用する把持体データは十分にあるが,より多くのデータを用いたほうが良いモデルが構築できるためである.また,抽出された把持特徴量の候補についても,人間工学や福祉工学,リハビリテーション学の観点から,モデル構築に有効かどうかという検討を進めていく.得られた研究結果から,各ユーザのプロファイルを入力すれば最適な把持体の形状(各個人が最も握りやすい形状)を決定するような数理モデルを構築していく. さらに,疑似木材(ケミカルウッド)を切削して複数の試作品を製作し,モデル自体の精度(どの程度「握りやすさ」を反映しているか)について研究を進める(試作品の作成方法や試作品を制作するシステムについては開発済みである).構築した数理モデルの評価実験については,三重大学と鈴鹿医療科学大学,県内の福祉施設数カ所において実施する(実験内容については各機関へ説明済みである).様々な形状のコップを作成し,各コップ(把持体)を握った時の表面筋電位を計測することにより,導出したモデルがどの程度「握りやすさ」を反映しているかを評価する.実用化の際に重要となるコップ自体の重さについても,各コップの重さを変化せることにより検討する.数理モデル構造に関する検討やパラメータの再調整等を行い,再度同じ被験者を対象とした評価実験を実施する.これらのプロセスを繰り返し行うことにより,構築したモデルの更なる高精度化を目指す.得られた実験結果については,各分野の専門家や福祉施設で働く職員と共同で分析し,現場で使用できるように改良を進めていく.本研究で構築されたモデルを活用して,各ユーザに合わせて把持体の設計パラメータ(数値的な指針)を提示,オンデマンドで把持体サンプルを作成するシステムを構築する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
【備品】 平成23年度ならびに24年度の研究経費により,三次元データ作成用の計測装置,試作品製作用の切削装置,これらを制御するためのワークステーション,回転軸ユニット,表面筋電位計の購入は完了している.特に備品を新たに購入する計画は今のところない. 【消耗品】 使用する表面筋電位計が湿式タイプであるため,使い捨て(ディスポーサブル)の電極が必要となる.なお,試作品の作成やデータ実験のために必要な象り用印象剤(特殊な化成粘土)や被切削剤(ケミカルウッド,木材等),そのた実験に必要な消耗品を購入する予定である.研究により得られた三次元ポリゴンデータを表示・保存管理するための記憶装置も必要となる. 【旅費】 研究成果については,日本人間工学会,医療情報学会,日本感性工学会,日本知能情報ファジィ学会,電子情報通信学会の国内学会,IMIA(国際医療情報学連盟)やIEEEが主催・協賛する国際会議にて発表を予定している. 【謝金・その他】 平成25年度は,引き続き「握り型」の象り作業と三次元ポリゴンデータ化,評価実験を実施する予定である.そのため,握り型の提供者や実験協力者,実験補助者に対する謝金が必要となる.研究成果を上記の学会に学術論文として投稿することも予定しているため,印刷費も必要となる.
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Research Products
(4 results)