2011 Fiscal Year Research-status Report
中枢性疲労を軽減する脳グリコゲンローディング法の開発
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23650384
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
征矢 英昭 筑波大学, 体育系, 教授 (50221346)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川中 健太郎 新潟医療福祉大学, 健康科学部, 准教授 (80339960)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 脳グリコゲン / 筋グリコゲン / 長時間運動 / 超回復 / 糖質摂取 / グリコゲンローディング / 中枢性疲労 / 高エネルギーマイクロ波 |
Research Abstract |
3日間の高炭水化物食による筋グリコゲンローディングはヒトやラットの筋グリコゲン貯蔵量を高めることで筋疲労を軽減し、持久性パフォマンスを向上させる。筋グリコゲンローディングは長時間運動後の糖質摂取による筋グリコゲン超回復を基に確立された。脳を構成する最も多い細胞であるアストロサイトにもグリコゲンが存在し、ニューロンのエネルギーになることが明らかになってきた。最近、私どもは長時間運動後のグリコゲン超回復が脳でも起こることを見出した(Matsuiら、J Physiol、2012)。そこで本研究では、中枢性疲労を軽減する脳グリコゲンローディングを開発するために、長時間運動後の脳グリコゲン超回復に及ぼす糖質摂取に影響を検討した。 ラットを4群に分け(安静-生理食塩水投与、安静-糖質投与、運動-生理食塩水投与、運動-糖質投与)、疲労困憊に至る分速20 mのトレッドミル運動を課した。安静群は停止したトレッドミル上に安置した。疲労困憊の直後、ラットに50%グルコース溶液か生理食塩水を投与した。運動の6時間後、脳を高エネルギーマイクロ波で固定し、5部位(大脳皮質、海馬、視床下部、小脳、脳幹)に分け、グリコゲンを定量した。同時に、筋グリコゲンも定量した。 その結果、私どもは筋とは異なり長時間運動後の脳グリコゲン超回復に糖質摂取は必須でないことを初めて明らかにした。更に、血中インスリン濃度は筋グリコゲン濃度と正の相関を示したが、脳グリコゲンとは相関しなかったことから、長時間運動後の脳グリコゲン超回復は筋とは異なり血中乳酸とは無関係に起こる可能性がある。しかしながら、長時間運動後の脳グリコゲン超回復は、筋と同様に糖質摂取によって増強されたことから、中枢性疲労を軽減により持久性パフォマンスを向上させる脳グリコゲンローディングの可能性が初めて示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、持久性パフォマンスを高める脳グリコゲンローディングは可能かどうかを明らかにすることを目的とし、二年計画で完遂する。平成23年度には、実現可能か否かが全く不明だった脳グリコゲンローディングの可能性を見出し、更に、それが筋とは異なる分子機構を介して生じる可能性をも掴んだ。当初の予定では分子機構については検討できないと考えていたことから、当初の計画以上に進展していると言える。これらの知見を基にして、平成24年度には脳グリコゲンローディングが開発できると期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、持久性パフォマンスを高める脳グリコゲンローディングは可能かどうかを明らかにすることを目的とし、二年計画で完遂する。1年目は、脳グリコゲン貯蔵量を高めるための脳グリコゲンローディングの可能性を見出した。2年目は、実際に脳グリコゲンローディングを開発することを目的とし、筋グリコゲンローディング法に倣い、運動と高炭水化物食が脳グリコゲン濃度を高めるかどうかを、種々の脳部位ならびにタイミングから検討する。更に、脳グリコゲンローディングが疲労困憊に至る運動持続時間や最大下運動時の運動効率(呼気ガス成分や血液パラメータ、脳・筋・肝グリコゲン)に及ぼす影響を検討する。その際、末梢の影響を差し引くため、脳グリコゲン濃度を高めない群を設定すべきだが方法論的に不可能なことから、薬物により脳グリコゲン濃度を特異的に高める群を設け、脳グリコゲンローディングの効果を探る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
脳は筋よりもグリコゲン代謝が速く、組織を摘出すると数分以内に1/10 以下のレベルにまで分解されるため、これまで測定困難とされてきた。しかし、脳を摘出する前、"屠殺"時に、高エネルギー(10kW 以上)のマイクロ波を照射し酵素を完全に失活させると、安定して高レベルのグリコゲン定量ができることが報告された(Kongら、Journal of Neuroscience、2002)。こうしたグリコゲン定量の特殊事情があるので、"高エネルギーマイクロ波照射装置"はこの研究で不可欠となる。 しかし、高エネルギーマイクロ波照射装置やその他の基本的な設備(トレッドミル、クリオスタット、小動物用呼気ガス分析装置など)は既に整備済みで、経費は純粋に消耗品のみでまかなえる。購入費目は、動物と試薬が主である。試薬は、グリコゲン定量、ならびに、グリコゲン代謝(分解と合成)に関わる酵素やホルモン測定キットを最小限購入する。 旅費としては、欧州スポーツ科学会(ECSS)、ロンドンオリンピックスポーツ科学会(pre-Olympic congress)における発表のための渡航費を計上している。本研究の成果は"持久性パフォマンスを高める脳グリコゲンローディング"としてスポーツ現場に還元することを目指すため、スポーツ科学者並びにスポーツ実践者が多く参加する上記の学会で発表し、論文を刊行する。
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