2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23650478
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
矢永 誠人 静岡大学, 理学部, 准教授 (10246449)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 亜鉛欠乏 / コバルト / 銅 |
Research Abstract |
亜鉛を欠乏させた飼料および純水を与えて飼育したマウスの各臓器・組織について、機器中性子放射化分析法を用いた多元素同時分析を行うと、肝臓や腎臓などの多くの臓器や組織では亜鉛濃度の低下はほとんど見られないが、骨中の亜鉛の濃度は亜鉛欠乏餌で飼育する期間が長くなるにつれて低下していた。また、すい臓中の亜鉛濃度は1週間の飼育で低下した後、欠乏餌による飼育期間が長くなっても、一定量の亜鉛濃度は保たれたままであった。一方、コバルト濃度については、分析対象とした全ての臓器および組織において増加していた。 このコバルト濃度増加の原因として、亜鉛タンパク質の亜鉛と他の金属、特にコバルトとの置換を考え、亜鉛欠乏餌およびそれに亜鉛(炭酸亜鉛塩基性)を添加した飼料の他に、コバルト強化飼料および銅強化飼料を調製し、これらを用いてマウスを飼育することにより、食餌中の亜鉛が欠乏した場合に、亜鉛と同じく2価の陽イオンとなりうるコバルトや銅が亜鉛の代用となりうるかどうかについて検討した。まず、飼育飼料として、亜鉛を欠乏させた飼料の添加するコバルトおよび銅としては、毒性も考慮し、塩化コバルトおよび硫酸銅を用いることとした。 亜鉛欠乏餌、亜鉛欠乏餌(コバルト添加)、亜鉛欠乏餌(銅添加)および対照餌(亜鉛添加餌)の4種の飼料および純水を与える対照飼育実験を行い、各群の成長の様子を観察したところ、コバルト添加餌および銅添加餌を与えたマウスについては、亜鉛欠乏マウスと同様の成長障害が認められた。このことは、細胞分裂または細胞の成長にかかる亜鉛タンパク質については、コバルトあるいは銅は代用金属とはなり得ない可能性が高いことを意味するが、金属強化による別種のタンパク質の誘導までに時間がかかる可能性等も考慮し、各臓器中の微量元素濃度の定量を行うための分析試料の作製まで行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者による以前の研究結果で、亜鉛欠乏状況下においては銅の増加が認められる臓器もあったことから、亜鉛の代用となりうる金属として、コバルトに加えて銅についても検討することとし、そのために必要な試料の調製を行うことができた。必要な供試動物を得てその成長を見ることができたとともに、必要な分析試料を確保することができた。 金属元素の分析については若干の遅れが生じているが、これは、当初利用を予定して利用申請を行っていた研究用原子炉(日本原子力研究開発機構)が東日本大震災の影響により運転ができない状況になったためである。これに関しては、他の研究用原子炉(京都大学原子炉実験所)の利用および当初の計画以外の試料についても他の分析方法(PIXE分析法)を用いて対応することが可能となったため、おおむね順調に進展しているといえよう。 さらに、分析については、当初予定していた臓器および組織に加えて、骨髄についても検討することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
当初は、食餌中の亜鉛を欠乏させた場合であっても、試験管レベルでは亜鉛結合タンパク質中の亜鉛と容易に置換して酵素活性を失わない性質をもったコバルトを添加させることにより、成長障害も含めた多くの亜鉛欠乏症状を抑制させることができるのではないかと考えていた。しかしながら、実際には、亜鉛欠乏餌にコバルトを添加した飼料でマウスを飼育した場合には、少なくとも外観上の成長障害は抑制されなかった。 しかしながら、タンパク質を介した微量元素間の相互作用が亜鉛以外の微量元素の濃度に反映されることが予想されるために、各臓器および組織中の微量元素濃度を多元素同時定量法として原子炉熱中性子照射による機器中性子放射化分析を行う。特に、食餌中の亜鉛が不足したことを鋭敏に反映するすい臓および骨について中心に行う。 また、成長障害について、細胞分裂の抑制によるものかどうかを検討するために、造血幹細胞を含む骨髄についての分析を行う。この分析は、試料量が少ないことから、荷電粒子励起X線分析(PIXE分析)法を適用する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度には、平成23年3月11日に発生した東日本大震災の影響により、当初利用を予定していた日本原子力研究開発機構東海研究所(茨城県東海村)の研究用原子炉の運転ができず、分析計画の変更を余儀なくされ、分析にかかる次年度繰越額が生じた。震災の影響は平成24年度まで続く見込みであるが、平成24年度に他の研究用原子炉(京都大学原子炉:大阪府泉南郡熊取町)を利用することで対応する。 また、新たに分析することになった骨髄の試料については、当初から利用予定施設所であった日本アイソトープ協会仁科記念サイクロトロンセンター(岩手県岩手郡滝沢村)での分析試料数を増加させることで対応する。 次年度の研究費については、平成24年度に請求する研究費とあわせて、これらの施設を利用した研究の遂行に使用する。
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