2011 Fiscal Year Research-status Report
Wntシグナル伝達経路を介する食品因子による脂肪細胞の分化制御
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23650487
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
金 東浩 大阪市立大学, 大学院生活科学研究科, 講師 (70326271)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 食と栄養 / 食品因子 / Wntシグナル / リポタンパク質 / 受容体 |
Research Abstract |
メタボリック症候群の予防は、肥満発症の抑制が最も重要視されている。肥満発症の抑制を成功させるためには、脂肪細胞の数的な増加に関係する脂肪細胞の分化機構を理解した上で、その調節機構を解明する必要かある。Wntシグナル伝達経路は個体発生時の細胞の分化や増殖を調節し、体軸や体節形成などの形態形成において中枢的な役割を担っている。近年、Wntシグナル伝達経路は形態形成のみならず脂肪分化にも関与することが示されており、間葉系幹細胞におけるWntシグナル伝達経路を制御すれば、メタボリック症候群の成因である肥満発症を抑制できると考えられる。また、Wntシグナル伝達経路は、リポタンパク質受容体LRP6によって活性化され、リポタンパク質受容体LRP10によって抑制されることが報告されている。このことは、間葉系幹細胞から脂肪細胞への分化を、LRP6は抑制し、LRP10は亢進する可能性を示唆する。研究の初年度である平成23年度は、LRP6とLRP10のcDNAを動物細胞発現ベクターへ挿入した組換え体を作製し、間葉系幹細胞であるST2細胞に導入することにより、LRP6やLRP10の過剰発現系細胞を確立し、LRP6はWntシグナル正にLRP10は負に調節することを明らかにした。また、LRP6はWntによる脂肪細胞への分化抑制作用をさらに亢進させたが、LRP10はWntシグナル伝達経路を抑制したにも関わらず、脂肪細胞への分化に影響を与えなかった。以上の結果はWntシグナル伝達経路を介する間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化は、現在まで知られているWntシグナル伝達経路よりも複雑な分子機構が関与することが示唆された。現在、確立したアッセイ系を用いてWntシグナルを制御する食品因子を探索している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通り、LRP6とLRP10のcDNAを動物細胞発現ベクターへ挿入した組換え体を作製し、ST2細胞に導入することにより、LRP6とLRP10の過剰発現系細胞を確立した。また、導入したcDNAの発現量と細胞内局在を確認した。次に、上記で作製した過剰発現細胞を培養し、Wntを導入、あるいはLiClを添加し、Wntシグナル伝達経路を活性化させ、脂肪細胞への分化におけるLRP6とLRP10の関与を明らかにした。現在、上記で作製した過剰発現細胞を様々なビタミン、ミネラル、アミノ酸、ペプチド、脂肪酸などの食品因子の存在下で数時間または数日間培養し、タンパク質とmRNAを精製し、Wntシグナル伝達経路の活性化の度合をルシフェラーゼアッセイを行い、TCFの転写活性を測定することにより行っている。脂肪細胞への分化度合は顕微鏡による形態変化の観察、Oil Red O による脂肪染色、およびリアルタイムPCRによる分化マーカー遺伝子(peroxisome proliferator activated receptor, PPARγ 2;fatty acid binding protein aP2)の増幅の確認により行っている。これらの結果を細胞群間でTCFの転写活性を比較検討し、Wntシグナル伝達経路が如何なる細胞種の如何なる状態で如何に制御されているかを解析しており、幾つかの食品因子がWntシグナル伝達経路を制御することを見出している。
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Strategy for Future Research Activity |
継続してWntシグナル伝達経路を制御する食品因子の探索を行う。株化培養細胞は初代培養細胞と形質が全く同じではないため、株化培養細胞で得られた結果が初代培養細胞で同じであるとは限らない。そこで、本研究ではWntシグナル伝達経路を制御することにより脂肪細胞の分化が調節された食品因子については初代培養細胞を用いて同様の実験を行い、よりin vivoに近い状態での再確認を試みる。初代培養間葉系幹細胞はラットの骨髄から分離培養する。また、市販のヒト骨髄由来の間葉系幹細胞を購入して利用する。食品因子によるWntシグナル伝達経路の制御には、Wntシグナル伝達経路の上位に位置するレセプターであるリポ蛋白質受容体との直接作用とWntシグナル伝達経路の下位に位置するアダプタータンパク質や転写因子との相互作用に起因することが考えられる。本研究ではゲルシフト解析、クロマチン免疫沈降解析、ルシフェラーゼベクターを用いたプロモーター解析により作用機構の全容を明らかにする。食品因子によるWntシグナル伝達経路の制御の詳細な作用機構解明は、現在までの知見に加え、研究代表者の前年度までの研究より得られたシグナル伝達系関連遺伝子について調べる。本研究ではリアルタイムPCR、ウェスタンブロッティング、免疫沈降、Two-Hybrid、遺伝子チップ、プロテオーム、などの解析法を用いて作用機構を明らかにする。食品因子によるWntシグナル伝達経路の制御は、エピジェネティクス制御機構の関連が考えられる。エピジェネティクス制御を受ける際の特徴であるヒストンや遺伝子のメチル化、アセチル化などの修飾について解析し、エピジェネティクス制御機構の関与の有無を調べる。エピジェネティクス制御を与える食品因子についてはより詳細な作用機構をクロマチン免疫沈降により解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の計画通りに研究費を使用する計画であり、研究計画の変更などはない。
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