2012 Fiscal Year Research-status Report
Wntシグナル伝達経路を介する食品因子による脂肪細胞の分化制御
Project/Area Number |
23650487
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
金 東浩 大阪市立大学, 大学院生活科学研究科, 准教授 (70326271)
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Keywords | 食と栄養 / 食品因子 / Wntシグナル / リポタンパク質 / 受容体 |
Research Abstract |
メタボリック症候群の予防は、肥満発症の抑制が最も重要視されている。肥満発症の抑制を成功させるためには、脂肪細胞の数的な増加に関係する脂肪細胞の分化機構を理解した上で、その調節機構を解明する必要かある。近年、Wntシグナル伝達経路は脂肪分化に関与することが示されており、間葉系幹細胞から脂肪細胞への分化を抑制するWntシグナル伝達経路を制御できれば、メタボリック症候群の成因である肥満発症を抑制できると考えられる。また、Wntシグナル伝達経路は、リポタンパク質受容体によって調節されることが報告されている。平成23年度には、LRP6とLRP10のcDNAを間葉系幹細胞であるST2細胞に導入することにより、LRP6やLRP10の過剰発現系細胞を確立し、LRP6はWntシグナル正にLRP10は負に調節することを明らかにした。また、LRP6はWntによる脂肪細胞への分化抑制作用を亢進させたが、LRP10はWntシグナル伝達経路を抑制したにも関わらず、脂肪細胞への分化に影響を与えなかった。以上の結果はWntシグナル伝達経路を介する間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化は、現在まで知られている調節機構よりも複雑な分子機構が関与することが示唆された。そこで、私は間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化にLRP6とLRP10以外のリポタンパク質受容体が関与すると考えた。平成24年度には、LRP6とLRP10以外のリポタンパク質受容体である、LDLR、VLDLR、ApoER2、LRP3、LRP4のcDNAを動物細胞発現ベクターへ挿入した組換え体を作製し、間葉系幹細胞であるST2細胞に導入することにより、種々のリポタンパク質受容体の過剰発現系細胞を確立した。現在、これらの過剰発現細胞を用いて、間葉系幹細胞から脂肪細胞への分化における種々リポタンパク質受容体の影響を解析している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
LRP6はWntシグナル伝達経路を亢進させ、間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化を抑制した。しかし、LRP10はWntシグナル伝達経路を抑制したにも関わらず、脂肪細胞への分化に影響を与えなかった。以上の結果より、間葉系幹細胞の脂肪細胞への分化には、Wntシグナルやリポタンパク質受容体を介する未知の分子機構が関与することが示唆された。私は、未知の分子機構を解明するために、種々のリポタンパク質受容体を過剰発現する間葉系幹細胞を作製した。これらの過剰発現細胞を用いて、間葉系幹細胞から脂肪細胞への分化における種々リポタンパク質受容体の影響を解析し、未知の分子機構を解明する計画である。また、これらの分子機構を調節する食品因子の探索も同時に行う計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
継続してWntシグナル伝達経路を制御する食品因子の探索を行う。株化培養細胞は初代培養細胞と形質が全く同じではないため、株化培養細胞で得られた結果が初代培養細胞で同じであるとは限らない。そこで、本研究ではWntシグナル伝達経路を制御することにより脂肪細胞の分化が調節された食品因子については初代培養細胞を用いて同様の実験を行い、よりin vivoに近い状態での再確認を試みる。初代培養間葉系幹細胞はラットの骨髄から分離培養する。また、市販のヒト骨髄由来の間葉系幹細胞を購入して利用する。 食品因子によるWntシグナル伝達経路の制御には、Wntシグナル伝達経路の上位に位置するレセプターであるリポ蛋白質受容体との直接作用とWntシグナル伝達経路の下位に位置するアダプタータンパク質や転写因子との相互作用に起因することが考えられる。本研究ではゲルシフト解析、クロマチン免疫沈降解析、ルシフェラーゼベクターを用いたプロモーター解析により作用機構の全容を明らかにする。食品因子によるWntシグナル伝達経路の制御の詳細な作用機構解明は、現在までの知見に加え、研究代表者の前年度までの研究より得られたシグナル伝達系関連遺伝子について調べる。本研究ではリアルタイムPCR、ウェスタンブロッティング、免疫沈降、Two-Hybrid、遺伝子チップ、プロテオーム、などの解析法を用いて作用機構を明らかにする。食品因子によるWntシグナル伝達経路の制御は、エピジェネティクス制御機構の関連が考えられる。エピジェネティクス制御を受ける際の特徴であるヒストンや遺伝子のメチル化、アセチル化などの修飾について解析し、エピジェネティクス制御機構の関与の有無を調べる。エピジェネティクス制御を与える食品因子についてはより詳細な作用機構をクロマチン免疫沈降により解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究には、当初の計画に追加してLRP6とLRP10以外の他のリポタンパク質受容体を過剰発現する細胞の作製を行った。細胞レベルで転写活性を測定するなどの解析は比較的に費用がかかるため、高額の実験はLRP6とLRP10以外の他のリポタンパク質受容体を過剰発現する細胞を作製してから同時に行うことにより、時間的にも経済的にも効率が高まると考えた。本年度に繰り越した金額は、当初の計画通りの費目で使用する予定である。
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