2011 Fiscal Year Research-status Report
時間栄養学による記憶学習能力の解析と認知症対策への基礎的研究
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23650490
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Research Institution | Kagawa Nutrition University |
Principal Investigator |
堀江 修一 女子栄養大学, 栄養学部, 教授 (60157063)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 記憶学習 / 時間栄養学 |
Research Abstract |
平成23年度では、計画していた以下の1)~3)の実験を行い、また4)の検討を進めている。1)本研究を遂行するために、最初にマウスの記憶学習能力を測定するための装置(電流刺激回避測定装置(A)と水迷路装置(B))の測定条件について検討し、装置Aでは電流量や刺激時間とその回数、刺激間隔について、また装置Bでは避難台の設置条件や訓練の仕方、休息時間の間隔と目標物の設置について、それぞれの条件を確立した。2)牛脂に富んだ高脂肪食をclockマウスと野生型マウスに与えて、経時的に電流刺激回避試験と水迷路試験により記憶学習能力の違いについて解析した。その結果、C3H系とICR系の2系統でその能力に違いのあること、また餌の組成の違いによって行動リズムに差が生じることが判明した。また、時計遺伝子クロックが変異したclockマウスでは、普通食であっても同能力の低下が認められ、概日リズムとの関連性からアプローチすることは妥当であるとの結果だった。3)餌を与える時間帯を変化させた制限給餌の環境下において、マウスの記憶学習能力を比較した。その結果、特に大きな違いが認められたのは固体差によるものだった。費用の関係からマイクロアレイ解析は行えない状況であるが、個々のマウスの脳や肝臓における関連遺伝子の発現変化について調べている現段階において、グルタミン酸受容体遺伝子の発現が記憶能力と関連する可能性が示唆されている。4)長期に渡って飼育したマウスを用いた記憶学習能力に対する加齢の影響についての実験を進行させている。1年以上の飼育を続けると、C3H系マウスの老化が顕著であり、また若年マウスに対する記憶学習能力の測定と同様の実験条件で調べるのは適当でないことが判明した。現在、長期の記憶学習能力の測定法を改善するための条件を検討しつつ、種々の環境下や負荷状況下にあるマウスの飼育と経時的な検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者が平成23年度において計画した研究実施内容の3つの項目の中で、能力検定と制限給餌の実験では、C3H系とICR系の両マウスを用いること、またclock変異マウスを野生型マウスと比較することを掲げていたが、これらマウス間での検討する実験はほぼ目的を達成している。また、餌の内容に関する実験については、高脂肪食を摂取させたときの関連するデータが得られていることから、一定の評価をすることができる。しかしながら、脂肪中の脂肪酸組成の違いの面からの検討は、実験が長期間に渡ることについての配慮が多少不足していたことから、十分な検討が行われている状況ではない。 一方、マウスに対する餌の給餌時間を制限する実験では、当初の計画に基づいて制限給餌ツールを購入するための予算が減額されたために、遅れが生じている。しかし、マンパワーを使うことで装置の不足を補い、実質上計画した実験についてかなりの部分が目標レベルをクリアできている。ただし、人的労力を注ぐことには限界があるので、今後の計画を少し修正する必要がある。 次に、記憶学習能力と遺伝子発現との関連性についての実験では、リアルタイムPCRの条件検討に時間と費用が予想以上に必要だった。予めコンベンショナルなPCR実験を行うことにより、脳の標的遺伝子についてある程度の情報を得ることができたことから、この点についても評価することができる。 さらに、加齢に伴う記憶学習能力の測定実験については、高齢マウスを飼育しつつ計画通りに条件検討を行っている。高齢化に伴いマウスの電流刺激に対する感受性の低下が見られることが明らかになったことは、次年度の実験を進めるための改良点についての貴重な情報であり、本研究の達成度を評価するためのマイナスの材料にはならないと認識している。 以上により、本研究の現在までの達成度はおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の「現在までの達成度」に示した研究の進行状況との関連から、今後の研究の方針としては、1)餌中の脂肪酸組成の違いの面からの検討、2)制限給餌実験の進展、3)脳の構造を意識した特定部位での記憶学習関連遺伝子の発現変動の検討、が中心課題である。また、これまでは雄性マウスを用いて実験してきたが、性差の面からの検討も行いたいと考えており、今後の実験では雌マウスを用いて行うことも計画している。 さらに、1)の脂肪酸組成の実験や、2)の制限給餌の実験では、認知症の基礎研究に結び付けられように、野菜などを中心とした食材を取り入れて検討することを考えており、今後文献による調査を開始して、候補を絞り込みたい。 すなわち、平成23年度におけるこれまでの検討・解析結果を基に、平成24年度では主に以下の3項目から研究を推進する。1)記憶学習能力の改善効果(食組成、食時刻、運動、性差、加齢の実験):野菜を中心とする抗酸化活性を有する栄養成分をマウスに与え、制限給餌条件下において記憶学習能力を調べる。本学に申請して購入された強制運動負荷(回転かご)装置を用いて、マウスに対する運動負荷を行い、記憶学習能力への改善効果を調べる。2)病態モデルマウスを用いた検討:認知症と密接に関連する糖尿病や血栓症の病態マウスやストレス負荷状態にあるマウスを準備してその行動や記憶学習能力を調べると共に、前述した特定の食材による記憶能力減退に対する予防効果や治療効果について検討する。3)脳と肝臓における時計遺伝子と核内受容体の総合作用の解析:各条件下で飼育したマウスの脳と肝臓における標的遺伝子の変動と時計遺伝子や転写因子との関連性を調べる。特に、概日リズムに関連するタンパク質とニュートロフィン系やその受容体の遺伝子、さらにグルタミン酸受容体関連遺伝子について解析すると共に、脳の特定部位での遺伝子発現について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度では、当初の計画として明示した通りに設備備品を購入する予定はない。すなわち、基本的に研究費のほとんどは、基礎実験を行うための試薬や生体成分の測定キットと抗体、並びにマウスの購入代と飼育維持に必要な消耗品代に充当する。遺伝子発現に関する実験では、蛍光プローブや酵素、基質などの購入費用に利用する。 一方、国際脳神経学会(International Behavioral Nueuroscicence Society, IBNS)に出席して、本研究により得られた成果を発表すると共に、脳神経系の機能と行動との関連性に関する現在の世界の最先端研究の実情について情報を収集すること、また今後の研究に役立てることを計画しており、そのための旅費を計上する。 計画している研究費(繰越額780,000円+交付予定額600,000円=1,380,000円)の利用法の詳細を以下に示す。設備備品費:0円、消耗品費:1,080,000円、旅費:300,000円(直接経費合計:1,380,000円)
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