2012 Fiscal Year Research-status Report
空間的意思決定指向型GISの開発-コミュニティ中心社会を見据えて-
Project/Area Number |
23650579
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
村山 祐司 筑波大学, 生命環境系, 教授 (30182140)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
碓井 照子 奈良大学, 文学部, 教授 (30068829)
王尾 和寿 筑波大学, 芸術系, 研究員 (10447237)
|
Keywords | 参加型 / GIS / つくば市 / 地理学 / ウェブGIS / 空間分析 / コミュニティ / 地理情報 |
Research Abstract |
3つの班に分けて研究活動を行った.(1)碓井班は,奈良県吉野郡川上村限界集落に関する地域調査を行い,ARCGISで集落データベースを完成させた.住民参加型GISの開発における幾つかの課題が明確になった.①高齢者が多い限界集落では,高齢者に直接,GISを利用して住民参加してもらうことは技術的にハードルが高く,地方自治体と住民との中継ぎをするITスキルのある若手の中間サポータ層やNPOなどの公益団体が必要であること.②川上村の高齢者は,大半が林業関係者であるため,WebGISを利用した林業関係者の若手層のネットワークづくりが,住民参加型行政づくりに必要であること.(2)王尾班は,情報技術を用いた市民参加活動の事例として,茨城県つくば市内の小学校区での地域安全マップの作成を対象に,情報技術を活用した市民参加活動に関する検討を行った.多数の保護者に対して,通学路の交通,犯罪,災害に関する不安箇所とその理由を調査するため,シール貼り付け式の調査マップを作成し,データ収集を行った.その結果,交通に関する不安箇所が最も多く,続いて犯罪,災害の順となった.また不安箇所の分布では,数点の高密度に分布する地点を抽出することができ,保護者の不安箇所に関する空間認識に共通性がみられた.犯罪および災害の不安については,家屋の密度や家屋への近接性が重要な要因となっていた.これらの成果をもとに,PTA役員会等での安全マップ作り,情報共有化等の活動を行い,情報技術を活用した市民参加プロセスのモデル化のための知見を得た.(3)村山班は,昨年試作した集合知を活用した地理空間データ取得システムをさらにバージョンアップするとともに,空間解析機能や地図表示機能を付加して実用性を高めた.システム構築は研究協力者のKoKo Lwin氏に依頼し,実証実験はつくば市を対象に行った.このシステムは現在ウェブで公開中である.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
NPOやNGOなどによる地域調査,まちづくり,環境保全活動,計画策定など様々なコミュニティ形成過程において,GIS,ICTなどの空間情報技術がどのように用いられ,何が課題となっているのか,あるいはその可能性について,事例調査,ヒアリング,アンケート,文献調査などをもとに明らかにできた.茨城県つくば市内の小学校区での防災,防犯,交通安全を目的とした地域安全マップの作成を対象に,情報技術を活用した市民参加活動に関する検討を行い,地理空間データの収集,市民参加の場における情報の共有化,コミュニケーションの促進に関する知見を得た.今後の情報技術を活用した市民参加プロセスのモデル化に向けて,ほぼ順調に進行している.さらに,平成23年度に構築した基本設計にもとづき,平成24年度は空間的意思決定指向型GISソフトウェア等の試作品を制作することを課題に掲げたが,この目標もほぼ達成できた.次年度には,開発されたソフトウェアやシステムを実際の市民参加活動に援用し,NPO関係職員,一般市民,学生,研究者など多様なユーザの参加によるモニタリングと実証実験を行うことが残されている.空間的意思決定指向型GISソフトウェアおよび,情報発信とともに住民,行政,企業などが双方向の意見交換を可能にするWebGISを中心としたシステムの開発と利用を通じて,欧米追従型ではない,わが国独自の市民参加スタイルの追究をめざす.
|
Strategy for Future Research Activity |
碓井班では,川上村を事例にしたが,この地域は生協組織である奈良coopへの加入率が極めて高く,限界集落の日常生活がこまどり便という生協の個別配達で維持されている.参加型GISの中間サポータ団体として奈良coopとの連携が必要であることがわかった.高齢者が多い限界集落などでは,地方自治体と住民との間に住民参加をサポートする情報コネクターとしての中間サポータ層の必要性が明らかになった.平成25年度には,これらの中間サポータ層を含む限界集落を対象にした参加型WebGIS構築の可能性を探究する.村山班および王尾班では,平成25年度には,本研究において開発された,GISソフトウェアおよびWebGISをベースにした情報共有化システムを,実際の市民参加活動で用いながら,計画立案における情報技術を活用した合意形成手法や政策支援手法の構築を目指す.対象とする市民参加活動は,茨城県つくば市における環境保全活動や子供の安全・安心に関する活動等を想定している. さらに平成25年度は最終年度なので,3班の研究成果を統合し,空間的意思決定指向型GISの今後のあり方に関し,提言を行う.優れたGISソフトウェアや空間情報を十分に活用するために,それらを利用した意思決定や課題解決に向かう手順・プロセスが重要である.本研究では市民参加に向けたGISを,実地のコミュニティ形成,各種計画の策定あるいは環境保全の活動などを通じ,その活用方法と手順を提示する.昨年度までの各種実態調査をもとに,地域調査や地理空間データ収集,分析,情報共有,合意形成など市民参加の多様な段階における情報技術活用を精査し,情報技術を活用した市民参加プロセスのモデル化を行う.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
碓井班は奈良県吉野郡川上村限界集落で聞き取り,アンケート調査を実施し,地理空間データベースを充実させるため,旅費と謝金が必要である.総額30万円のうち,交通費を10万円,謝金を10万円,消耗品(磁気媒体やソフトウェアなど)を計上する.村山班および王尾班はつくば市を対象に一部,共同で研究を行う.データの収集やデータベース構築のための謝金(短期雇用)を30万円,計上する.また,成果を学会などで発表するための旅費を10万円計上する.サーバの構築や維持管理に,磁気媒体やHDなどの費用は20万円計上する.情報技術を活用した市民参加活動の実態調査を継続するための交通費と謝金,および分析を補助するための研究補助者の雇用経費が必要である.また研究成果発表のための旅費,GISソフトおよびコンピュータ関連の物品費も計上する.
|