2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23651002
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
杉山 慎 北海道大学, 低温科学研究所, 講師 (20421951)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 南極 / カービング氷河 / 棚氷 / 氷河流動 / GPS / ラングホブデ氷河 |
Research Abstract |
H23年度は、当初の予定通り南極ラングホブデ氷河における観測、装置の設置を行った。(1) GPS自動観測システムの構築: 氷河の流動速度を長期間無人で測定するため、省電力型のGPSとソーラー電源による測定システムを2台構築した。この結果、氷河上でのGPS長期連続観測が可能となった。(2) 南極地域観測隊への参加: 南極での観測を実施するため、第53次南極地域観測隊に隊員2名、同行者1名の参加を要請し、これが実現した。その結果、観測隊の輸送手段や設備をプラットフォームとして利用して、ラングホブデ氷河での観測が可能となった(本プロジェクトでは同行者1名の旅費と装備を負担)。(3) 人工衛星データ解析: 人工衛星可視画像(ALOS PRISM)を用いて、氷河の表面高度と流動速度の空間分布を測定した。さらに得られた標高データから、ラングホブデ氷河の接地線を推定した。これらの解析結果は、ラングホブデ氷河の地形と流動状態を初めて明らかにすると共に、現地での観測地域を選定するために重要なデータとなった。(4) ラングホブデ氷河での観測: 2011年12月28日から2012年2月9日にかけて、ラングホブデ氷河末端付近の棚氷域にて観測を実施した。氷河の末端から0.05、1.3、2.8、3.2kmの地点にGPSを設置し、流動速度を連続的に測定した。また、氷河上約2×4kmの範囲でアイスレーダによる氷厚探査、表面高度の精密測定を行った。現地滞在中に得られたGPS観測結果から、氷河末端部の流動は潮汐の影響を受けて大きく変動することが明らかになった。その変動幅は氷河末端に向かって増加し、末端付近での流動変化は10倍以上に達する。観測期間終了後は、上記のうち2地点にGPSを残置し、2013年1月頃の回収まで自動観測を継続中である。 上記のうち、一部の研究成果は国内の学会及び学術誌にて公表済み。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
H23年度は当初の計画に沿って、測器の開発、衛星データの解析、南極での野外観測を実施した。測器の開発に関しては、長期無人稼働が可能なGPSシステムを構築した他、アイスレーダのアンテナ部材を改良して信頼性の向上に成功した。衛星データの解析では、詳細なDEMの構築と流動速度の測定を行い、DEMに基づいた接地線の推定を実施した。南極での観測活動は順調に進み、本研究課題最大の目標である氷河流動速度の通年測定に向けて、2台のGPSが氷河上に残置された。夏期間は順調に稼働してデータを取得しており、昭和基地に越冬する隊員によって2013年度に回収される予定である。以上、当初の予定に沿って研究が進んでいることに加えて、約一か月の現地観測期間中に、潮汐に起因した複雑な流動速度変化が明らかになった。高い時間分解能で測定された流動変化は、溢流氷河の流動機構を解明する上で重要なデータであり、予想を上回る成果である。また、南極地域観測隊の同僚隊員がラングホブデ氷河末端付近で潮汐を観測しており、潮汐データと氷河流動との比較が可能となった。また別の隊員の力を借りて、当初予定していなかったGPSデータの精密解析、流動速度の周波数解析が進みつつある。これらの状況から、本研究課題が当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
H24年度は、前年度の観測データの解析を実施する。まず、GPSデータの最適な処理方法を検討することで、より高い精度と時間分解能で流動変化を解析する。具体的には、新しいソフトウェアの導入により、GPS干渉測位の解を連続的に求めることを予定している。この解析にはGPSメーカーから技術協力を受ける。得られた流動速度と氷河末端部で測定された潮汐データとの比較を行い、短周期流動変化とその空間分布のメカニズム解明を目指す。流動と潮汐の変動に周波数解析を施すことで、流動変化の原因が明らかになると考えている。一方、アイスレーダのデータから観測地域の氷厚分布を解析するとともに、底面での反射強度を利用して接地線の検出を試みる。この解析を進めるために、アイスレーダの観測に詳しい国内外の研究者との議論を予定している。H24年度後半には、ラングホブデ氷河に残置した測定装置の回収を行う。回収作業を行う昭和基地越冬隊員とは、メールや電話を通じた打ち合わせを実施し、現場の状況に応じた適切な回収作業を依頼する。研究最終年度となるH25年度は、氷河から回収された通年のGPS測定データを解析し、流動速度の季節変化、突発的な流動変化の有無、潮汐と流動との関係、などを明らかにする。さらに測定された氷河形状をもとに氷河流動モデルを構築し、観測された流動変化を数値実験によって再現することを目指す。以上の観測データ解析と数値実験によって、溢流氷河の流動変化メカニズムを明らかにし、氷床から海洋への氷フラックスに与える影響を議論する。
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Research Products
(5 results)