2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23651002
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
杉山 慎 北海道大学, 低温科学研究所, 講師 (20421951)
|
Keywords | 南極 / カービング氷河 / 棚氷 / 氷河流動 / GPS / ラングホブデ氷河 / 海洋 / 国際研究者交流 |
Research Abstract |
H24年度は当初の計画通り、南極ラングホブデ氷河での観測データ解析、人工衛星データを用いた解析、および氷河にて通年観測を終えた機材の回収を行った。 (1)H23年度に南極で実施したGPS流動測定データを解析した。同時に測定した潮汐に起因する底面水圧変動と比較することで、水圧(潮汐)に強く影響を受けた氷流動変化の詳細が明らかになった。また同じく現地で実施した氷探査レーダによる測定データを解析した。氷探査レーダによって得られる氷の厚さと、氷河が棚氷として浮いていると仮定して予想される厚さを比較することで、氷河の接地線を推定した。これらの結果は、海洋と溢流氷河の相互作用について、その規模とメカニズムに関する新しい知見を与えるものである。 (2)新たにASTER可視画像衛星データを使用して、過去10年間にわたるラングホブデ氷河の末端変動と流動速度場を非常に高い分解能(数週間から数か月)で解析した。その結果氷河の末端位置が、定常的な流動による前進と、カービングイベントによる後退によってコントロールされていることが明らかとなった。さらに氷河表面高度の変化を解析し、近年の氷厚変化と流動変化との関係を比較した。これらの結果は、溢流氷河の詳細な末端変動を示す貴重なデータである。 (3)2012年2月からラングホブデ氷河にて観測を続けたGPS2台、底面水圧と氷温測定装置2セットを、第54次南極地域観測隊の夏オペレーションにて回収した。2013年1月29日に装置は全て無事に回収され、電源が不足する厳冬期など一部を除いてデータの取得に成功した。初期的な解析の結果、棚氷下の海水温度が一年周期で変動していることを強く示す結果が得られた。年間通じての流動データ取得は本研究課題最大の目的であり、データの回収に成功した意義は大きい。今後のデータ解析結果が期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野外観測データを用いた研究としては、当初の予定通りGPSおよび氷探査レーダのデータ解析を実施した。GPSによって測定された流動速度は底面水圧との比較解析が進んでおり、概ね予定通りの進捗状況である。また氷探査レーダの解析から、氷厚の分布に加えて、接地線位置の同定に成功した。この点は予想以上の成果である。以上の成果は国内および国際学会にて発表済みである。 人工衛星データを用いた解析に関しては、新たに産業総合技術研究所の中村和樹氏(現在日本大学)の協力を得て、ASTER画像を大量に用いた解析を行った。その結果、非常に高い時間分解能で、末端変動および流動変化に関する結果を得た。この成果は、氷河末端部の変動に関して計画以上の成果をもたらすものである。これらの成果についても、国内および国際学会にて発表を行った。 氷河での通年観測に関しては、GPSに関しては約80%、底面水圧・温度については約60%のデータ取得率であった。厳冬期の電源供給のむずかしさは事前に把握しており、概ね予想通りの結果といえる。この通年観測は本研究課題の最大の目標であり、一部欠測したものの測定データの回収に成功した意義は大きい。 このほか、ラングホブデ氷河の変動、流動に関する数値モデルの開発を計画していたが、2012年度には着手に至らなかった。当初予定していたよりもダイナミックな流動変化が観測されており、数値モデルの手法、構成を改めて検討する必要性が生じたためである。 以上のような研究進捗状況を鑑みて、当課題は「おおむね順調に進展している」と考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
H25年度は当初の予定通り、ラングホブデ氷河における通年観測データの解析を実施する。特にGPSデータの解析に関しては、長期間にわたる連続データの取得に成功したため、新しい解析手法および解析に必要なソフトウェアの導入が必要となる。具体的には、連続データを動的測位モードで処理することにより、より高い時間分解能で流動速度の変化を解析する。ソフトウェアの選定は終わっており、今後その導入を実施する。人工衛星データに関しては、観測期間中の画像を取得して、流動速度、末端位置の変化を測定し、流動速度データとの比較を行う。衛星データの入手に関しては、引き続き中村和樹氏に協力を依頼する予定。 以上の現場観測、衛星データ解析結果を統合して、氷河の流動、変動、温度分布を再現する数値モデルの構築を目指す。構築に必要な地形データ(表面標高、氷厚、接地線位置など)は概ねそろっており、2次元または3次元の有限要素法氷河モデルを適用できる見込み。近年の氷床変動を駆動していると考えられている海水温度の変化など、新しいパラメータを導入した数値実験の実施を目指す。 これまでに実施した野外観測、人工衛星データ解析の結果は、すでに国際学会、国内学会にて発表を行っている。今後はその内容を英文で論文としてまとめ、国際誌に公表することに力を注ぐ。またホームページや一般向けの講演を通じてその成果を広く公開する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
|