2012 Fiscal Year Annual Research Report
南極露岩域湖沼における生態系発達史と多様性維持機構の解明
Project/Area Number |
23651006
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山室 真澄 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (80344208)
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Keywords | 南極大陸 / 栄養塩 / 光 / 炭素安定同位体比 / ラン藻類 / 湖沼 / コケ類 / 間隙水 |
Research Abstract |
南極大陸の宗谷海岸には氷床に覆われていない場所が存在し、露岩域と呼ばれる。宗谷海岸の露岩域は約2万年前に氷床が後退して形成され、それに伴ってできた湖沼が多数存在する。湖のサイズ・集水域・水深・水質は様々だが、淡水湖沼においては貧栄養であることが共通している。貧栄養でありながら、湖底には藻類やシアノバクテリア・コケ類が優占し、複合したマット状の植物群落が広がっている。共通して貧栄養環境にありながら湖底マットの様子は湖沼間で大きく異なっており、その維持・成長をコントロールする環境要因は不明である。そこで本研究では宗谷海岸の露岩域にある17湖沼を対象に、どのような環境要因が湖底マットによる生産に影響を与えているのかを検討した。 水温と湖水・間隙水の栄養塩濃度と一次生産速度を反映する炭素安定同位体比との関係を検討した結果、有意な相関関係は認められなかった。この原因として窒素固定を行うシアノバクテリアにより、湖底マットは貧栄養な環境下におかれながら潤沢に栄養が蓄えられており、光合成の律速に影響していない為と考えられた。各湖底に到達する光エネルギーを成分ごとに分け(紫外線:UV、光合成有効放射:PAR、全光エネルギー:UV+PAR)、炭素安定同位体比との関係について検討したところ、どの光エネルギー成分も炭素安定同位体比と有意な負の相関を示した。光成分の中では、紫外線が最も強い相関を示した(r=-0.84))。また湖沼の光環境と集水域の面積との間には、有意な負の相関があった。以上の結果から、集水域が大きいほど湖への流入量が増加し、特に溶存有機物が増えることによって光環境に負の影響を与え、湖底マットの光合成速度が増加すると推定した。このように南極露岩域の植物生産は、貧栄養でありながら栄養塩濃度に律速されず、光量が多いほど生産性が低くなるという、極めて得意な生態系であることが分かった。
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Research Products
(4 results)