2011 Fiscal Year Research-status Report
陸域水圏環境変化のプロキシ:オオクチバスと鱗の中の炭素・窒素安定同位体比
Project/Area Number |
23651010
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
張 勁 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 教授 (20301822)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 炭素・窒素安定同位体比 / オオクチバス / 鱗 / 水圏環境指標 |
Research Abstract |
地球温暖化影響は降雨(雪)量の変化などを生じ,気象異常として世界各地で顕著になってきている。さらに,生物多様性の減少や人為的開発などによる環境の変化により,地球上の物質循環に重要な役割を果たす陸域水圏(河川,ダム湖,池沼など)の環境も変化していると推測される。本研究では,世界各地に移植されている外来生物オオクチバス,特にその鱗の炭素・窒素安定同位体比により,陸域水圏の環境モニターとして,世界規模でのダム湖や池沼の現状と環境変化を把握するための簡易的な方法の提案を目的としている。 本年度は,主にフィールド調査と実験室での試料分析に力を注いだ。対象地域は狭い範囲に標高差3000mもあり,人為的影響がほとんどない山岳地帯を集水域に持つ河川が多くある富山県とした。オオクチバスが定着しているダム湖8カ所とため池2カ所を選び,オオクチバスやその餌となる魚類などを採集し炭素・窒素安定同位体比を測定した。測定は筋肉と非致死的かつ簡易的試料として鱗を測定し,さらに,基礎生産の代表的指標として沿岸堆積物の同位体比も分析した。 その結果,(1)オオクチバス(地点ごとに9~10個体)から得た脱脂筋肉のδ13Cとδ15Nを比較したところ,それぞれの調査地点においてまとまった値を示す一方で,各調査地点間では異なる値を示し,それぞれの調査水圏や食物網の特徴を表していると考えられた。また,(2)水圏の基礎生産のプロキシとして沿岸域の湖底表層堆積物の同位体比も加えて検討したところ,ダム湖は集水域の標高とダム湖の回転率により区別される二つのグループに分けられ,オオクチバスが水圏環境モニターとしての可能性が示唆された。更に,(3)オオクチバスの鱗と筋肉の炭素・窒素同位体比は高い相関(R2=0.98)を持つことが確認でき,鱗の炭素・窒素安定同位体比がインテグレートされた水圏環境の指標になりうることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は,世界各地に移植されている外来生物オオクチバスが陸域水圏の環境モニターとして,世界規模でのダム湖や池沼の現状と環境変化を把握するための簡易的な指標としての可能性を模索することを目的としている。 今年度は,狭い範囲に標高差3000mもあり,人為的影響がほとんどない山岳地帯を集水域に持つ河川が多くある富山県をモデル域として,オオクチバスが定着している10地点より試料を採集し炭素・窒素安定同位体比を測定した。また,オオクチバスのδ13Cとδ15Nは調査地点間で異なり,各々の水圏や食物網の特徴を表し,水圏環境モニターとしての可能性が示唆された。更に,オオクチバスの鱗と筋肉の炭素・窒素同位体比は高い相関を持ち,鱗がインテグレートされた水圏環境の指標になりうることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は,オオクチバス以外に一部のダム湖においては,堆積物の炭素・窒素同位体比を分析し,オオクチバスとの関連性を明らかにし,異なる水圏環境における食物網の栄養源情報を把握する。また,水質データや水文学データを併せて,水質の季節的な変化も精査し,オオクチバスの淡水域における環境評価指標としての有効性を考察する。さらに,オオクチバスを陸域水圏環境汚染指標としての有効性を評定するため,筋肉中の重金属含有量の分析・評価も試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費(観測・分析用消耗品類;試薬類):250,000 円旅費(調査・資料収集・研究打合せ・学会参加旅費):300,000 円人件費・謝金(実験補助;資料提供・閲覧):250,000 円その他(機材・試料等運送費用;印刷費;英文校閲費):200,000 円計:1,000,000 円
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Research Products
(7 results)