2011 Fiscal Year Research-status Report
気候変化は樹木の季節成長にどう影響するか-年輪酸素同位体比の精密測定による解析
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23651012
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中塚 武 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (60242880)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 樹木年輪 / セルロース / 酸素同位体比 / 季節成長 / 気候変動 / 熱帯木 |
Research Abstract |
本研究は、樹木年輪に含まれるセルロースの酸素同位体比が、その元となるセルロースが形成されたときの相対湿度や降水の同位体比を記録していることに着目し、年輪内のセルロース酸素同位体比の季節変動データと、当該年の気象観測データ(相対湿度や降水量など)を詳細に比較・対応させることで、年輪の中にこれまで見えなかった季節の時計を刻み、樹木の季節成長パターンを明らかにすると共に、その気候変動との関係を理解することを目的としている。 平成23年度は次の2つの課題に取り組んだ。第一に、年輪が存在せず季節成長はおろか経年成長パターンの解析さえ行えて来なかった熱帯域の木部コアに、この方法を応用することで、熱帯域の樹木の季節・経年成長パターンを初めて復元すると共に、その気候変動との関係を探る取り組み。第二に、これまでに自らが採取してきたざまさまな樹種の年輪コアの季節変動試料を、整理・解析する取り組みである。 第一の課題は、平成23年8月にラオス北部の焼畑二次林で行われた。焼畑のあとで自生する数種の樹木の木部コアを成長錐を用いて採取し名古屋大学に持ち帰った後、成長方向に垂直にミクロトームを用いて薄片化して、セルロースを抽出し、その酸素同位体比を測定した。その結果、これまで何も見えなかった年輪が、乾季・雨季の相対湿度や水同位体比の変動に対応した「酸素同位体比の周年変動」と言う形で明瞭に表れ、その樹木の樹齢が分ると共に、経年・季節成長のパターンやその気候の経年変動との関係が解析できることが明らかとなった。第二の課題に関しては、2003年の4月から10月にかけて、2週間に一度、札幌と苫小牧において採取していたシラカバ、アカナラ、ポプラ、ミズナラ、ヤチダモ、カラマツなどの年輪コアの季節試料の成長解析を詳細に行い、今後の同位体分析に供するためのデータを収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、当初計画していた愛知県における樹木年輪コアの周年サンプリングや、それと対応させた土壌水や樹幹水の同位体比の測定が行えなかったが、その代わりに、2003年に自らが採取していた北海道のさまざまな樹種の年輪コアの季節サンプリング試料が、本研究の目的で利用できることを発見した。2003年当時、同時に密閉容器の中に採取していた土壌や木部コアの試料から、今後土壌水や樹幹水を抽出することで、その酸素同位体比を測定することが可能であり、気象データと組み合わせることで、精度の高い季節成長パターンの解析が行えることも分った。それ故、当初の観測作業の遅れは何とか取り戻せる見込みである。一方で、当初は予想していなかった熱帯木への本研究の手法の応用が、成功裏に行えたことは、本研究の今後の発展にとって極めて大きな朗報である。総合的に見て、おおむね本研究は順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、2003年の4月から10月にかけて2週間おきに北海道で採取していた、さまざまな樹種の木部コアの季節変化試料を、成長方向に垂直な面でスライスし、セルロースを抽出して、その酸素同位体比を分析し、気象データとの対比から、樹種毎の各年の季節成長パターンを復元すると共に、その気候の経年変化との関係を明らかにする。また、熱帯材のセルロース酸素同位体比の時間変動に関する精密分析と、その気象データとの対比を初めとする詳細な解析を進め、本研究で得られた手法を、新しい熱帯木の成長解析の方法として、確立させる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は、愛知県で予定していた樹木年輪コアの周年サンプリングと関連したセルロース及び各態水の抽出、及びそれらの同位体分析が行えなかったことにより、予算の執行額が当初の予定を大幅に下回った。その分の経費は、平成24年度に持ち越しとするが、その目的は2003年に採取していた試料の再解析とそれらの試料からの年輪セルロース及び各態水の抽出、同位体比の分析・解析に充てるためである。一方で、「年輪」の無い熱帯材の季節・経年成長パターンの解析にも、本研究の手法が応用可能であることは、当初の予定に無かった発見でもあり、こうした本研究課題の新しい展開にも、平成23年度に使えなかった研究費の一部が有効に使われる予定である。
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