2011 Fiscal Year Research-status Report
海洋亜表層における窒素循環の制御要因としての鉄の新たな機能
Project/Area Number |
23651017
|
Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
武田 重信 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 教授 (20334328)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 海洋科学 / 海洋生態 / 地球化学 / 窒素循環 / 鉄 / 植物プランクトン / 亜硝酸塩 / 海洋亜表層 |
Research Abstract |
海洋の亜表層に出現する亜硝酸塩極大層の形成要因として、微量栄養素である鉄の欠乏に伴う植物プランクトンからの亜硝酸塩の細胞外放出の重要性を明らかにするため、2011年7月の長崎丸第333次航海に乗船し、東部東シナ海の陸棚上において観測を行った。亜表層のクロロフィル極大層を中心に深度間隔約1mの高分解能の採水を実施して、亜硝酸塩と溶存鉄濃度の鉛直分布の関係について検討した。クロロフィル極大層の直下で、硝酸塩、亜硝酸塩、リン酸塩濃度が深度幅数mの範囲で共に急激に増加する明瞭な栄養塩躍層が発達していたが、亜硝酸塩及び硝酸塩は極大を示さずに、躍層から海底に向かって徐々に増加する傾向にあった。溶存鉄濃度は1nM前後の比較的高い値を示し、栄養塩躍層付近では明瞭な濃度変化が見られなかったことから、東シナ海の陸棚上のクロロフィル極大層付近に分布する植物プランクトンは鉄が不足しておらず、躍層下から鉛直拡散により供給される無機窒素・リンを急速に取り込んでいたと推察される。一方、東シナ海の陸棚縁辺域では、クロロフィル極大層の5~10m下層かつ硝酸塩躍層の上部に相当する深度に明瞭な亜硝酸塩極大が形成されており、植物プランクトンによって取り込まれた硝酸塩の一部が亜硝酸塩として放出されている可能性が示唆された。また、2011年12月の白鳳丸KH-11-10航海に乗船し、西部北太平洋亜熱帯においても高分解能の採水を実施して栄養塩および溶存鉄濃度の試料を採取した。今後は、東シナ海の陸棚域および縁辺海で得られた結果と、亜硝酸塩極大層の出現深度が約120mと深い西部北太平洋の観測結果を対比させることにより、光強度など植物プランクトンからの亜硝酸塩放出に関与する鉄以外の環境要因の影響も合わせて評価する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東シナ海における亜表層の鉄および亜硝酸塩の鉛直分布について、予定通りの観測ならびに試料採取を行うことができた。また、当初は次年度に計画していた西部北太平洋においても観測を実施することができ、東シナ海陸棚域と太平洋沖合域の間で、亜硝酸塩極大層の形成機構の違いを検討するための試料が確保されている。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究船「白鳳丸」KH-12-3次航海および練習船「長崎丸」の東シナ海航海に乗船し、夏季にフィリピン海や東シナ海で、前年度と同様の定点集中観測を行う。亜硝酸塩極大層の深度が150 m前後と深いフィリピン海での結果を、極大層の浅い東シナ海の観測結果と対比させることにより、光強度など植物プランクトンによる亜硝酸塩放出に関与する鉄以外の環境要因の影響について解析を行う。 2ヵ年の現場観測で得られた結果を統合的に解析し、これらの海域の亜表層において、微量栄養素である鉄が欠乏することにより植物プランクトンからの亜硝酸塩の細胞外放出が促進され、亜硝酸塩の極大層を形成する要因になっているとの仮説の妥当性を検証する。また、これらの成果を取りまとめ、海洋亜表層における窒素循環機構の総合的な解明に必要な検討課題を抽出するとともに、日本海洋学会等において成果を発表する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費は、調査航海で使用する試料容器とフィルター類、採取する海水試料中の栄養塩および鉄を分析するための試薬・器具類の購入に充てる。 旅費は、調査航海に乗船するための出張(白鳳丸航海下船後にミクロネシアから帰国するための外国旅費を含む)と学会発表のための出張に使用する。 その他として、調査航海で使用する水温塩分センサーのレンタル料と学会参加登録費、投稿論文の英語校閲費を予定している。
|