2011 Fiscal Year Research-status Report
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23651035
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
櫻井 次郎 関西大学, 法学研究所, 特任研究員 (40362222)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 公害裁判 / 中国 / 環境公益訴訟 / 被害者救済 |
Research Abstract |
本研究は、1「環境被害の救済プロセスに見られる阻害要因」に関する研究と、2「環境訴訟における原告証明責任の軽減および公益訴訟の試みの効果と問題点」から構成される。 まず1については、これまでの研究過程で調査を実施した地域の中から、さらに詳細な聞き取り調査が可能な地域を選定することとされていた。そこで、本年度は実際に判決で損害賠償を勝ち取った福建省の事例を選定し、追跡調査を実施した。その結果、判決後5年以上たつ現地では被害が継続しており、住民による苦情申し立ても続いていることが判明した。過去の被害に対する損害賠償による被害救済の限界が鮮明となり、公害差止めおよびそのための公害防止措置の徹底、住民参加のモニタリングの重要性を再認識し、これを阻害する要因を次年度以降の検討課題として念頭におくものとした。 次に2の課題については、まず和文・英文および中文による先行研究のサーベイを行った。文献サーベイの対象は中国において裁判所に受理された公害訴訟および環境公益訴訟であり、2011年9月までの事例を可能な限り収集した。これらのサーベイによる分析結果を、北川秀樹編著『中国の環境法政策とガバナンス―執行の現状と課題―』(晃洋書房、2012年1月)の第3章(79-103頁)で「中国における環境法の執行と司法の役割」と題して公表した。 最後に、環境公益訴訟に関する現地でのヒアリング調査については、現在雲南省で係争中の事例に着目し、同案件で原告となっているNGOの弁護士へのヒアリングを行うと同時に、この弁護士の協力を得て担当裁判官へのヒアリング調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画は、主に次の3点である。すなわち、1「これまでの研究過程で調査を実施した地域の中から、さらに詳細な聞き取り調査が可能な地域を選定すること」、2「先行研究のサーベイ」、3「環境公益訴訟」に関するフィージビリティ調査、である。 すでに研究実績の概要で述べたように、1については福建省の事例について追跡調査を実施した。また、2についても可能な限りの文献サーベイを実施し、その成果はすでに著書の一部として公表した。また、3についても公益訴訟を審理する裁判官へのヒアリング調査を実施した。ただし、1におけるアンケート調査は、現地住民への影響や治安状況などに鑑み自重した。また、3における現地住民へのヒアリングも、係争中の訴訟への影響を考え次回調査への課題とした。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、「環境訴訟における原告証明責任の軽減」が被害者救済に与える影響については、本年5月26日(土)に武漢大学で開かれる日中シンポジウムでの報告が決定している。同シンポジウムには中国で活躍する著名な環境法研究者も出席するため、これまでの研究成果をもとに意見交換がなされるものと期待している。この成果は、年度内に発行される神戸市外国語大学紀要において公表する予定である。 次に「環境公益訴訟」については、8月末に再度雲南省の訴訟現地を訪れ、判決後の現地の状況を視察し、弁護士へのヒアリング調査を実施する。この調査結果については、9月20日前後に北京大学法学院主催のシンポジウムにおいて報告することが予定されている。 上記2つの課題については、日本でも「中国環境問題研究会」において本年11月中旬および来年2月に報告を予定している。 また、最終年度には他の公害訴訟の調査と、江蘇省における公益訴訟の調査を予定している。公害訴訟の事例選定は現在中国の研究者・弁護士と調整中である。江蘇省の公益訴訟については北京大学法学院の准教授と打合せ中である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は研究者本人が本務校を異動し、これに伴う諸事情のため2回を予定していた中国への現地調査の準備を整える見込みが立たなかったため、中国での現地調査は1回のみとなった。この関係で、本年度使用予定であった予算から229,083円を次年度に繰り越すことになった。次年度は、今年度に行えなかった中国における現地調査に30万円前後を使用する。残りは、主に図書・印刷物の購入費用(特に中国語論文の収集に努める)、国内で開かれる研究会への参加費用、その他消耗備品の購入費用として使用する。
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