2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23651083
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
大川 浩作 信州大学, 繊維学部, 准教授 (60291390)
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Keywords | 水生付着生物 / 水生昆虫シルク-セメント / イガイ類接着物質 / 接着物質同定 / 接着機構 / 接着タンパク質遺伝子 |
Research Abstract |
海産無脊椎動物の内、特に淡水性付着性二枚貝であるイガイ類に所属する生物の内、カワヒバリガイ (学名 Limnoperna fortunei) を研究対象に選択した。カワヒバリガイの足組織に含まれる接着物質生合成器官であるフェノール腺を採集し、全mRNAを抽出後、cDNAライブラリを構築した。カワヒバリガイ足組織特的 cDNAライブラリーからクローン 190種以上を選別し、塩基配列解析を行ったところ、海産大型イガイ類の接着物質原料となるタンパク質と高い相同性を持つものをスクリーニングすることに成功した。また、イガイ本体と接着性繊維をつなぎ止めている糸状部分を構成するコラーゲン様タンパク質、また、イガイ類接着物質を凝集固化する役割を持つ酸化酵素であるポリフェノールオキシダーゼと見られる遺伝子も発見することができた。以上の結果から、淡水産イガイ類では、主に、タンパク質分子の等電点が海産イガイよりも中性付近であることが明らかになり、基本的な凝集機構のひとつ物理凝集過程の側面において、淡水環境に適応した分子構造を待つことが示唆された。さらに、幼虫絹糸腺のcDNAライブラリをスクリーニングし、当該付着性繊維タンパク質に含まれるホスホアミノ酸がpSerであることを明らかにした。さらに、およそ300アミノ酸残基の長周期構造を持つタンパク質の遺伝子クローニング手法を有効に行うための分析法についても検討を行った。これらの知見は、海産イガイ類接着タンパク質遺伝子のcDNAライブラリ作成および翻訳後修飾様式同定のための基礎研究手法となる。上記の成果により、ミドリイガイ接着タンパク質遺伝子を含むcDNAライブラリー作成、および、翻訳後修飾様式・頻度解析のための手法をほぼ確立することができ、海産および淡水産イガイ類の両方に適用可能な分析手段を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究推進に関する当初計画では、海産および淡水産のイガイ類接着タンパク質室遺伝子の網羅的解析の最初の段階として、(i) cDNAライブラリーを構築し、次いで、(ii) 翻訳後修飾様式・頻度解析の手段を確立し接着機構を解明する予定であった。平成24年度の研究進捗では、淡水性のイガイ類および水生昆虫のシルクーセメントタンパク質遺伝子に関する (ii) の課題においてより多くの成果が得られている。接着タンパク質遺伝子の網羅的解析を行う研究対象は、イガイ類が持つ種々の生存戦略に含まれる接着機構の中では、海水環境および淡水環境による差異を明らかにすることで、酸化酵素が媒介する基本経路に加え、アミノ酸組成変化にともなう等電点の差異を含め、接着過程全体をとおした生存戦略の違いを解明し、工学研究に繋げたいと考えている。平成24年度の成果により、クローニング対象の種類について、海産ではミドリイガイ (学名 Perna viridis) および 淡水産ではカワヒバリガイ (学名 Limnoperna fortunei) 、および、水生昆虫 (Stenopsyche maarmorata) シルクタンパク質の3種に拡張することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度では、最初に、達成度記載の研究課題 (i) ミドリイガイおよびカワヒバリガイの足組織フェノール腺のcDNAライブラリーを作成を継続する。次いで、これまでに収集した接着タンパク質のN末端アミノ酸配列情報をもとにプライマーを設計し、cDNAライブラリーからの接着タンパク質遺伝子のスクリーニングを行う。具体的な手法としては、イガイ類足組織フェノール腺からDOPA含有タンパク質およびホスホアミノ酸含有タンパク質を予め同定しておき、これらのN末端配列情報をもとにスクリーニングしたcDNAクローンがコードするアミノ酸配列を決定する。DOPAの前駆体はTyrおよびホスホアミノ酸の前駆体は、Ser、Thr、または、Tyrのいずれかであるので、接着タンパク質の化学分析から修飾率を予備的に定量し、前駆体コード領域のアミノ酸配列情報をもとに、修飾頻度・傾向がある程度判明する。これらの情報をもとに、翻訳後修飾様式と頻度に基づく接着機構の推定が可能となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の研究用資材として我々が入手できないのは、カワヒバリガイの生物試料である。この種は特定外来種に指定されているため、採集現場から信州大学の研究室内に持ち込むことは法的にできない。そのため、多数の個体を一度に採取でき、現場で処理して足組織を採取する必要が生じている。平成24年度では、天候不順等の理由により、生物試料を提供できる研究機関との共同採集作業の機会が当初予定よりも少なく、そのため、次年度使用額が発生した。次年度使用額は、生物試料採集旅費および補助者の謝金に充当する予定である。さらに、上記の実験計画の内、ホスホアミノ酸抗体は非常に高価であるので、この資材費としても充当する予定である。
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[Presentation] Isolation of silk proteins from a caddisfly larva, Stenopsyche marmorata2012
Author(s)
Kousaku Ohkawa, Yumi Miura, Takaomi Nomura, Ryoichi Arai, Koji Abe, Masuhiro Tsukada and Kimio Hirabayashi
Organizer
Textile Bioengneering Informatics Symposium 2012, Proceedings, pp. 233-242.
Place of Presentation
Shinsnu Univ., Ueda, Japan
Year and Date
20120808-20120812
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