2011 Fiscal Year Research-status Report
イオン注入によるシリコン基板中へのシリサイド量子ドット規則配列格子の作製
Project/Area Number |
23651087
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
坂口 紀史 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70344489)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ウェハ直接接合 / らせん転位網 / ナノ粒子規則配列 / イオン注入 |
Research Abstract |
本年度は,イオン注入したシリコンウェハの直接接合と,その後のアニールによる接合界面上へのらせん転位ネットワーク形成と,注入元素との反応によるシリサイド析出過程に関する基礎的な検討を実施した.熱酸化により厚み20nmのSiO2膜を形成した(001)シリコンウェハに対し,室温で不純物元素を所定の量までイオン注入した.注入イオンはタングステン(W)とし,注入イオンの加速電圧は50kVと設定した.本条件において,Wイオンの注入深さ(ピーク位置)はウェハ表面より10nm以内となることをTRIM計算により確認した.続いて,イオン注入したウェハ表面のSiO2膜をHFエッチングにより除去し,注入面が向かい合うように所定のねじれ角で二枚のウェハを直接接合した.これを窒素雰囲気中,1000℃で1時間アニールし,界面においてSi原子同士を直接接合させることで正方格子状のらせん転位ネットワークを形成させた.同時に,イオン注入により強制固溶したWを,らせん転位ネットワーク節点へ偏析させ,最終的にシリサイド(WSi2)を転位パターン上に析出させることを試みた.張り合わせ後の平面ならびに断面(S)TEM観察より,接合界面上に一定間隔で析出物が形成されている様子が確認された.さらに,析出物の間隔はらせん転位網間隔に一致することが電子回折図形の解析より明らかとなった.一方,析出粒子をEDS分析したところ,析出物はWシリサイドではなくSiO2粒子であることが判明した.これは,表面保護のために形成したSiO2膜中の酸素がWイオンに弾き出され,シリコン基板内に注入されたことに起因することがTRIM計算より明らかとなった.以上より、当初予定していた界面上への金属シリサイド周期構造の析出は達成できなかったが,らせん転位網節を利用した周期構造物(SiO2粒子)の作製に成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請時の目標に対し、現在までの達成度を以下に示す。【イオン注入パラメータ・接合条件の最適化:到達度100%】シリコンウェハに金属元素を直接イオン注入した場合、あるしきい照射量以上ではウェハが非晶質化し、それ以下であってもウェハ表面のラフネス発生により、その後の直接接合が達成できないことが分かった。その後、ウェハ表面に保護膜を成膜し、さらにイオン注入条件の最適化により、イオン注入したウェハの直接接合に適した条件を見出した。また、張り合わせ後のアニール温度の最適化により、良好な接合界面が得られる条件を見出した。【シリサイドの析出条件の最適化:到達度80%】イオン注入後のウェハを直接接合し、高温でアニールすることで張り合わせ界面上に第二相が析出することが示された。さらに、アニール温度を最適化することにより、これら析出物がらせん転位網間隔に対応した周期で配列する条件を見出した。一方、形成された析出物は金属シリサイドではなく酸化シリコンであり、これはイオン注入時の保護膜に用いた酸化膜中の酸素が、イオン注入時の弾き出しにより基板中に注入されたことに起因することが分かった。よって、金属シリサイドの形成条件については未解明な部分はあるが、少なくとも酸化物を含むシリサイドの析出条件については十分なデータが得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により、本申請課題で提案したプロセス(イオン注入したシリコンウェハの直接接合と,その後のアニールによる接合界面上へのらせん転位ネットワーク形成と,注入元素との反応によるシリサイド析出)により、材料中に周期的に二次元配列したナノ構造物が作製可能であることが実証された。一方、シリコン中に析出した第二相は、金属シリサイドではなく、酸化シリコンであることが判明した。これは、イオン注入時の保護膜に酸化シリコンを用いたため、酸化シリコン中の酸素原子がWイオンに弾き出され、基板内に注入されたことによると考えられる。そこで、次年度はまず、注入したい元素(本研究ではW)から構成される保護膜をシリコンウェハ表面に成膜し、その後イオン注入を行うことで、ウェハ内に酸素原子が混入することを防ぐとともに、金属シリサイドを接合界面上に配列させることを試みる。次に、ねじれ角やイオン注入量を制御することで、形成されるシリサイドの間隔や大きさ等の制御を試み、さまざまな配列パターンの量子ドット作製に向けた検討を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の結果より、金属シリサイドを接合界面上に配列させるためには、イオン注入に先立ち、注入したい元素から構成される保護膜をウェハ表面に成膜させる必要があることが判明した。そのため、当初予定していたイオン注入ターゲット等消耗品の購入を一部取りやめ、さらに予定していた測定機器の使用も取りやめたため、未使用研究費が生じた。この問題解決のため、次年度は当初の研究計画に加えて、RFスパッタ装置(現有)を用いてウェハ表面に金属薄膜を予め製膜することを新たに試みる。そこで、次年度に繰り越された未使用研究費を、RFスパッタ用金属ターゲット作製費に充てることにする。これにより、金属シリサイドを接合界面上に形成することが可能になると考えら、さらに、異なる素材の金属ターゲットを準備することで、形成されるシリサイドの構造を変えることも検討している。
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