Research Abstract |
多孔性配位高分子の一種である[Ca(C_4O_4)(H_2O)]_nは,スクアリン酸を配位子とするCa錯体であり,0.34×0.34nmの一次元細孔を有している。本研究課題ではその一次元細孔内に制約された水素および重水素をMEM/Rietveld解析によって直接観察することを目的とし,in situによるX線回折パターンの測定(SPring8, BL02B2ビームライン)を行った。温度15-70Kにおいて水素ガスまたは重水素ガスを圧力100kPaまで導入し,X線回折パターンの測定を行ったところ,分子吸着によって全ての反射強度が大幅に低下する一方で,反射角はシフトしない事が分かった。すなわち,分子の吸着前後においてCa錯体のフレームワーク構造はほとんど変化せず,分子の吸着に伴う電子密度分布のコントラストの低下が,反射強度の低下をもたらしたと考えられる。ここで,水素と重水素の吸着に伴う反射強度が大きく異なることが特徴的と言える。これは,細孔内における重水素密度が水素よりも高いことを示唆しており,量子力学的効果に帰すことができる。また,各X線回折パターンのLe Bail解析を行ったところ,温度70Kでは,degas後,水素吸着後,および重水素吸着後の各反射における構造因子の相対比が完全に一致した。一方,温度が50K以下となると,degas後,水素吸着後,および重水素吸着後の各状態において,構造因子の相対比がそれぞれ異なる反射が見られる事が分かった。このことは,Ca錯体の細孔内で吸着分子の配置がより規則的となり,かつ水素と重水素で異なる構造となっている事を示唆している。現在,MEM/Rietveld解析によってCa錯体の細孔内に制約された水素および重水素分子の構造解析を行い,その位置不確定性を直接観察すると同時に,経路積分モンテカルロシミュレーションによる吸着メカニズムの解明を進めている。
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