2011 Fiscal Year Research-status Report
一次元ナノ構造有機半導体による量子相関光子対生成への新展開
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23651105
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
谷 俊朗 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60302923)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小田 勝 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30345334)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ナノ材料 / 有機半導体 / J会合体 / 光子対 / 量子相関 / フレンケル励起子 |
Research Abstract |
本研究では,室温で量子もつれ光子対の生成を可能とする材料構造の特定を目標に,1次元ナノ構造有機半導体に特有な室温でも安定に生成するフレンケル励起子の可能性を世界に先駆けて追求する。量子もつれ状態が実証できれば,ナノ構造光源材料に関する新規な選択肢を提供できると共に,励起子光物性・有機半導体に係わる基礎科学分野にも多大の貢献が期待できる。モデル構造として,擬イソシアニン色素分子PICを特定の条件下で凝集させるJ会合体と呼ばれる1次元ナノ構造に着目した。具体的には,このJ会合体を活性媒質として高分子PVS薄膜中に分散し,平行平面鏡で挟み,微小共振器を構成する。共振器試料の光学応答を,光短パルス計測の手法で計測し,光子対発生とその偏光相関を実験的に検証する。予備研究より策定した,必要な光学装置の基本構成とその励起光源部分,及び試料作製に関する基本方針に基づき,本年度は評価装置の基盤部分を固めると共に,特に物性基礎固めとして,J会合体の微視的なモルフォロジーとの相関の上で,いずれ必須となる顕微計測の手法を検証しつつ発光寿命計測とその解明から取り掛かった。特に後者は,光子対発生に至る励起状態の構成とその緩和特性を把握する上で必須であるとの認識を得た。J会合体の励起子状態を精密に制御するために,既存のTi:S短パルス光源を援用し,白色光の生成とフーリエ変換スペクトルフィルターを組合せ,上記の発光寿命計測から,J会合体の高速エネルギー緩和の経路に付いて新たな知見を得た。評価装置は当初の計画通り,信頼性の確保のため同一性能の小型分光器2台を整備し,PMないしAPDを光子検出器とする光子相関計測光学系の構築を進めた。微小共振器試料の構成に関しては,ポリビニル硫酸カリウム(PVS)薄膜にPIC-Jを分散して活性層とするため,Ag蒸着膜を鏡材料として構成する基盤を概ね完成させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
J会合体の微視的環境との相互作用を含むモルフォロジーとの相関を見据えた緩和過程の解明は,励起子の動的過程の一環としてその応用上必要欠くべからざる情報である。今年度は,光子対生成用の光源として準備した波長可変光短パルス光源(1ps、1nm)の最初の動作検証例として,Jの高密度化に伴う高速エネルギー緩和経路に付いて新たな知見を得た。量子相関計測装置の最終的実証はその分先送りとなったが,基本的には順調に進展している。微小共振器試料の設計・製作と最適化としては,(1) 活性薄膜の成膜条件の最適化,(2) 微小共振器構造 (厚み:λ/2~λ) の光学設計と作製の最適化を行った。具体的には,PICのエタノール溶液を95℃のポリビニル硫酸カリウム (PVS) 水溶液に混合し,スピンコート法によりJの形成と薄膜化を同時に行った。共振器鏡には,当面Ag蒸着膜を用いた。成膜と共振器の作製は,石英ガラス基板上に一体のプロセスで行った。膜厚評価にはAFMを用い,共振器ポラリトンの基礎特性は既存設備で評価し,設計・作製に反映させる。試料構造には,共振器構造と並行してバルク試料 (厚み:~10μm) も常時比較検討する。光子対生成・計測装置の設計・製作と装置評価としては,(1) 励起用光源系の設計・製作と最適化,及び,(2)検出用光学系の設計・製作を進めた。試料を励起するポンプ光の光学系は,既存のTi:S短パルス光源を援用し,光ファイバーに入れて白色光を生成し,波長幅約0.5nm (時間幅~1ps)のパルス光を,フーリエ変換スペクトルフィルターで切り出す方式とした。動作状況は上述の通りである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に得られた結果を基にして,本年度は,試料・計測系とも必要不可欠な修正以外は,全力を挙げて詳細な計測と解析に注力し,地道な実験を集積する。先ず,微小共振器試料の高度化については,(1) 本研究は短期集中を旨とするため,J会合体の色素分子は,PIC色素で基本的に継続する。一方でPIC-J会合体は,吸収スペクトルがやや複雑な点に難があり,付随する励起状態からの寄与が雑音として信号に重乗する可能性もある。その様な場合にのみ,例えばカルボシアニン系色素を対案に準備する。Jの濃度制御は,前年度の知見から選択幅は狭いが、2倍程度までは可能なので最適化の一助とする。(2) J会合体は,Ag蒸着鏡によるQ値の低い (i.e. ~30) 共振器でも,共振器ポラリトンを室温で生成できる点が最大の強みである。一方で,上下両面ともDBRで共振器を構成し,共振器光子のスペクトル幅を励起子のスペクトル幅より狭める事は,特性解明の上で多大の利点がある。スピンコート法以外のJ分散薄膜生成法 (低融点ポリマーの溶融固化 etc.) と併せて,必要に応じ臨機応変に試みる準備を整える。計測装置改善及び量子相関光子対計測として,BBO非線形結晶で動作確認をしつつ,光子対生成と偏光に関する量子相関計測装置を完成させる。計測光学系は,細かい調整・改善は必須である事が予想されるが,装置開発は最小限に留め,発生と特性計測及びそのための試料条件の最適化に注力する。偏光相関に関するデータのSN比改善を進め,定量的解析に注力するとともに,併せて,成果の発表を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究上必要な主要な物品類は既に調達済みであり,基本的には消耗品,旅費,及び成果発表関連に充てられる予定である。未使用額が生じた主な理由は,博士後期課程院生修了の最終年度に当たり,実績の概要でも述べた蛍光寿命のモルフォロジー依存性をより詳細に検証する必要が生じたためであり,その成果は次年度の活動の基盤となり,且つ欧文論文として現在既に投稿中である。基本的には消耗品費に該当する分であり,基金制度の趣旨に則り,次年度に有効利用する予定である。
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Research Products
(1 results)