2013 Fiscal Year Research-status Report
シビレエイの細胞を用いたバイオマイクロ発電デバイスの開発
Project/Area Number |
23651133
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
田中 陽 独立行政法人理化学研究所, 生命システム研究センター, ユニットリーダー (40532271)
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Keywords | シビレエイ / エネルギーデバイス / 神経 / 発電器官 / マイクロ・ナノデバイス / 生体機能利用 / 生物・生体工学 / 細胞・組織 |
Research Abstract |
生物の基本単位である細胞は、マイクロサイズにきわめて多彩かつ高度な機能が集約されており、これを細胞のサイズに合わせた人工的なデバイスに集積化することにより、現在の技術では実現不可能な画期的なシステムを創成できる可能性を秘めている。本提案では、強力な電気を発生する器官を有する特殊な生物である電気魚の発電機能に着目した。発電細胞の利用により、従来の燃料電池とは全く異なる原理の化学エネルギーから電気エネルギーへの直接変換システムが実現可能と考えられる。本デバイス実現のためには、まず発電細胞の培養法を確立し、発電の制御法を確立する必要がある。以上をふまえ、本研究の目的は、発電細胞を集積化した発電システムの基盤創成とした。 平成24年度までに、シビレエイ捕獲量調査を行い、安定的に捕獲できる時機が判明した。また、シビレエイ個体の発電の電気的特性としてシビレエイの発生電圧・電力を測定し、デバイス作製の基礎を築いていた。 平成25度はこれらの知見をもとに、発電細胞の培養ならびに電気特性評価に取り組んだ。これまで。発電器官から取り出した発電細胞を培養したという報告はなく、発電細胞の生理学的特性は明らかになっておらず、発電デバイスの具体的な設計のためにはこれを測定する必要がある。具体的には、まず培養液として、このような神経系の組織に対しては人工脳髄液(ACSF)が用いられるが、生物種によって用いられる組成は異なる。ここでは比較的近いと思われる魚類でアンコウに対して実績のあるものを用いて酸素バブリングしたACSFを用いた。電気特性の測定には多点同時細胞外電位測定器MED64を用い、急性スライスを作成して神経刺激物質アセチルコリンを1 µMに調整したACSFを還流装置で流したところ、100 µV程度のスパイク信号が検出され、細胞の生存および電気的特性が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
以上の成果により、発電細胞の具体的な生理学特性が把握できた。これは、当初の目的であった発電デバイスの設計のみならず、単純にシビレエイ神経系の生理学としても新たな知見であり、非常に興味深いものであるといえるため、予想以上の進展があったと考えられる。 おおよそ1細胞あたり100 µV程度の細胞外電位というのは、発電細胞が膜タンパクが非常に多く集積し、また形状が平坦になった一種の神経細胞であり、神経細胞自体の発電電位がおよそ100 mVオーダー、そして細胞外では電位が1/1000になるといわれることを考えれば妥当な値といえるが、これを実際に実証したこと、さらには酸素バブリングしたACSF浸漬で一定時間確実に生存を保ったことは新たな成果であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度までの成果を発展させ、刺激によるシグナルの条件最適化・安定化を行い、マイクロデバイスへの組み込みを検討する。具体的には、マイクロチャネルで培養を行い、バルク条件との生存性の違いを明らかにし、また、電気特性の測定ならびに評価を行う。さらに、アセチルコリンによる刺激用流路を作製し、これによって発電細胞の部分的な化学的刺激を行い、その応答を計測する。これらの実現のためには、まず刺激用の、すなわちシビレエイの神経系を模倣したような3次元的に微細な流路を作製する必要があり。その加工法、ならびに流体操作法について詳細な検討が必要であり、キャピラリーの部分切削加工やバルブの流路内組み込みなどの新たな技術開発を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、上記のようなシビレエイ発電細胞の生理学的特性測定のための培養液の検討や電極の作製・組み込みおよび測定の安定化に予想以上の試行錯誤が生じたために時間を消費し、約132万円の未使用分が発生した。 これは平成26年度に発電デバイス作製のために執行する予定である。具体的には、物品費としてデバイス材料やシビレエイの他、試薬や実験器具などの消耗品として60万円、調査や打ち合わせのための国内旅費として20万円、条件検討に必要な人件費として40万円、郵送費などその他として12万円を計画している。
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