2011 Fiscal Year Research-status Report
基軸通貨の生成・崩壊および安定化に関する人工市場と実証による研究
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23651154
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
橋本 敬 北陸先端科学技術大学院大学, 知識科学研究科, 教授 (90313709)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安冨 歩 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (20239768)
田所 昌幸 慶應義塾大学, 法学部, 教授 (10197395)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 基軸通貨 / 人工市場モデル / 動的関係性 / 生成 / 崩壊 / 安定化 / 流動性選好 / 地政学的関係 |
Research Abstract |
本研究は,基軸通貨の人工市場モデル研究と政治経済学的分析・統計データ解析による実証的研究を有機的に結合し,基軸通貨の生成・崩壊・安定化のメカニズムを解明することを目的とする. 平成23年度はモデル研究として,基軸通貨の生成・崩壊・長期安定のメカニズム分析が可能な人工市場モデルの構築を進めた.辻野・橋本(2010)は,物々交換から貨幣が自生・自壊すること示した安冨(2000)の貨幣モデルに流動性選好と地政学的関係を導入し,基軸通貨の国際金融市場モデルを提案している.しかし,辻野・橋本(2010)の国際金融市場モデルでは,国間の関係は静的に設定されており,取引や通貨の評価によって変化する動的な関係が考慮されていない. 本研究では,動的関係性を考慮した基軸通貨の振る舞いを分析できるようにするため,主体(国家)間の関係性が取引活動に応じて変化する新たな通貨モデルを提案する.本モデルでは,通貨評価と取引評価を新たに設計している。通貨評価は通貨の受領性を示す指標であり,「直近の評価を重視する短期通貨評価」と「過去からの評価を重視する長期通貨評価」の2つを、各主体の持つ評価戦略に基づいて重みづける.取引評価は,相手が自分にとって有益な取引相手かどうかを評価する指標であり,過去の取引を参照し自身の欲求する通貨を入手できた相手ほどその取引評価が高められる.これらの指標から各主体の属性が決まり,その属性間の相対関係として国家間の関係が取引に応じて動的に変化する. 本モデルのシミュレーション実験より,通貨評価が低い主体が高い主体に近づくように大きく属性が変動し,変動が少ない主体も基軸通貨を発行する主体の周囲を回るよう動くという振る舞いを示した.これは,基軸通貨が他の通貨を惹きつけるようにして新たな関係を構築するというダイナミクスを形成していることを意味する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は,基軸通貨の安定化メカニズムを解明するために下記3点を達成することを目的としている.1.モデル研究:基軸通貨の生成・崩壊・長期安定の可能性がある人工市場モデルを構築し,べき法則発生要因,および,内生的・外生的ショックや変化への応答を明らかにする.2.実証研究:様々な国際通貨制度の政治経済学的分析を行い,重要変数,パラメータ等の特徴を明らかにする.また,為替データの統計解析よりモデルと対応するべき法則を示す.3.両者の結合:国際通貨制度の分析に基づいた具体化したモデルの構築とその分析により,近年提案されている国際通貨制度の安定性検証を行う.また,モデル・統計の両解析の知見を合わせ,ドラゴンキング現象の生じるメカニズムを明らかにする. 平成23年度は,モデル構築,べき法則発生要因の解明,内的・外的ショック,変化に対する応答の分析という人工市場モデルによる研究,および,代表的な国際通貨制度の分析という実証的研究を行う計画であった.実際に,基軸通貨の崩壊という内生的ショック,金融危機などの外生的ショックの影響を分析できるように,地政学的関係を内生変数化したモデルの開発を進めたが,まだモデルが完成したとはいえず,分析の途上である.特に,統計量の分布やショックに対する分析は進んでいない. このモデル開発の遅れにより,国際通貨制度の調査,および,本モデルとの関係の分析が滞っている.
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Strategy for Future Research Activity |
早急に基軸通貨の人工市場モデルを完成させ,分析を進める.そのための具体的方策として,シミュレーション実験とデータ解析を加速するために研究支援者を雇用する. 具体的に進めることは,まず今年度の積み残し課題である,内的・外的ショック等の変化に対する応答,および,べき法則発生要因の分析である.これらの分析の中で様々な条件における基軸通貨継続期間の統計的分布を調べ,ドラゴンキング現象の解明を行う. 実証研究については,分担者との連携を強化して具体的成果を出すようにする.そのために,できるだけ会合を持ち,会合に加えてネットミーティングを活用する.まずは,代表的な国際通貨制度の分析を行い,人工市場モデルにその特徴を載せられるように,特徴の抽出,比較を行う. これらの成果を,国内学会,国際会議で発表し,最終的な論文にまとまる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度はモデル構築・分析が計画通りには進まなかったため,研究打合せ,成果発表の旅費,国際会議参加費に未使用分が生じた.未使用分の研究費は,研究支援者の雇用に回すことで,モデル研究を加速させるとともに,この部分の成果を国内学会で発表する.次年度にずれ込んだ成果の発表分を考慮して,研究打合せを3回,国内学会での発表を3回に増やし,国際会議での発表も行う.計画では統計処理用のワークステーションの導入を計画していたが,充足率を考慮して価格を抑えたものを導入する.国際政治経済学の資料,貨幣論,統計学等の関連図書を計画通り購入する.
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Research Products
(3 results)