2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23651165
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
矢守 克也 京都大学, 防災研究所, 教授 (80231679)
|
Keywords | フィクション / 防災・減災 / 語り継ぎ / 社会心理学 |
Research Abstract |
本研究は、小説、ドラマ、映画等の「フィクション」に描かれた災害事象が、人びとの災害観、および、防災意識の形成に及ぼす影響について、(1)「フィクション」に登場する災害事象に関する社会的表象理論に基づく内容分析研究、(2)「フィクション」が災害観と防災意識の形成に及ぼす効果に関する心理実験的研究などを通じて、理論的かつ実証的かつ実践的に検討するものである。 これまで、主に2つの研究を実施し所定の成果をあげたと考えている。 第1に、阪神・淡路大震災の被災者(語り部活動の従事者)の体験談(語り)を、語りを聞きとった大学生たちが、被災者との共同作業を通じて、アニメーション、ビデオクリップ、絵本(紙芝居)などのフィクション作品(一部ノンフィクション)に再編し、そうした教材を用いた防災教育を小学生対象に実施する研究プロジェクトを実施した。この取り組みを通じて、災害の体験者と非体験者の共同作業が体験の語り継ぎに及ぼす影響について、社会心理学の観点から検討した。 第2に、災害をめぐる「フィクション」を素材に、災害情報のあり方をめぐる原理的な考察を行った。考察のキーワードは、〈選択〉と〈宿命〉である。災害情報の整備を含め防災に関する努力全般は、究極的には、災害に関するありとあらゆる〈宿命〉を〈選択〉に変換することに他ならない。通常、この目標の実現は、一点の曇りもなく望ましいことのように思われている。しかし、ほんとうに、すべての〈宿命〉を〈選択〉へと変換することが望ましいのか。〈選択〉可能であることは、常に安全や安心を社会にもたらし、人びとを幸福にするのか。この難問について、「砂の器」、「東京・地震・たんぽぽ」、「真昼のプリニウス」など、いくつかの小説を素材として原理的な考察を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」の通り、当初の研究計画に示した方向に従って2つの研究を実施済である。ただし、第1の研究、すなわち、作品の共同制作プロジェクトについては、その効果性を検証するための取り組みを今後継続させる予定である。また、研究期間中の2011年3月、東日本大震災が発生した。その後、東日本大震災を素材とした小説、映画等のフィクション(ノンフィクションとの中間的性質をもつ作品も含む)が大量に公表されつつある。これらについては、当初計画になかったため、また、現時点でも多くの作品が公表中で、その全貌を把握できる状態にいたっていない。このため、現時点では、本研究の考察の対象とはなしえていない。
|
Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」を受けて、第1の研究、すなわち、作品の共同制作プロジェクトについては、その効果性を検証する研究を今後継続させ、同時、プロジェクトの成果を学会発表、研究論文等にとりまとめる予定である。また、東日本大震災を素材とした小説、映画等のフィクション(ノンフィクションとの中間的性質をもつ作品も含む)についても、可能な限り、上記の第2研究の素材として組み入れて考察に盛り込む予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
体験者の語りをベースに作成した作品の普及・啓発とその効果性の検証を行うためのワークシップ開催経費、そのための旅費、および、東日本大震災を素材としたフィクション作品について検討するための資料(図書等)の購入費用、さらに、研究成果の公表のための活動(学会発表)のための旅費などに経費を使用する予定である。
|
Research Products
(6 results)