2012 Fiscal Year Research-status Report
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23651249
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Research Institution | Mukogawa Women's University Junior College Division |
Principal Investigator |
吉田 徹 武庫川女子大学短期大学部, 食生活学科, 准教授 (00378952)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福尾 惠介 武庫川女子大学, 生活環境学部, 教授 (40156758)
福田 滿 武庫川女子大学, 生活環境学部, 教授 (90098517)
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Keywords | 凍結保存 / 過冷却 / 磁場凍結 / アルテミア / 凍害防御剤 / トレハロース |
Research Abstract |
本年度は電磁場エネルギー付与の過冷却凍結による凍害評価及び、過冷却専用庫で作り出した過冷却温度別の植氷凍結による凍害評価実験を行った。 変動磁場を付与した過冷却凍結による成績については、CASフリーザー庫内の磁場分布が一定でないことが判明し、実験に先立って庫内の磁場強度分布マップを作成した。その結果、微弱な変動磁場が下段手前より上段奥にかけて分布し、各変動磁場強度ごとに検討を行ったが、いずれも通常の過冷却凍結を上回る成績は得られなかった。この件について、製造元のアビー社はCASフリーザーによる変動磁場は当初唱えていた過冷却状態の実現より、水分子の氷核成長抑制の効果にあることを説明している。この説明を受けて、CASフリーザー庫内の仕様を変更し、ネオジム磁石を用いた定常磁場付与による凍害評価実験を重点的に行った。その結果、微弱な定常磁場群と、比較的強い定常磁場群で僅かな孵化率上昇が認められた。しかしながら、統計的な有意性を示すには追加実験が必要であること、有効な磁場群が2群に分かれるなど、なお不明瞭な点も残るため、引き続き検討していく予定である。本年度はさらに磁場凍結を行わず過冷却専用庫で作り出した過冷却温度別の植氷凍結による凍害評価実験を行い、詳細な条件を精査した。その結果、アルテミアの水和胚を凍結させることなく、過冷却状態を保ったまま植氷により強制的に凍結させたところ、過冷却保持温度に応じた孵化率の有意な変化が認められた。同時に、凍結速度ごとに示差走査熱量測定を行い、過冷却凍結による水和凍結胚内部の明瞭な相転移エンタルピーの減少を確認した。これらの熱学的データを加味すれば、少なくとも凍結速度によりアルテミア水和胚内部の氷晶状態が異なる可能性を示しており、従来の凍結方法と比べ過冷却凍結の優位性を示唆するものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目にあたる本年度の研究計画では、昨年度までに報告した凍害評価法の確立を受けて、具体的にCASフリーザーによる変動磁場凍結、ネオジム磁石による定常磁場凍結、過冷却専用庫で作り出した磁場付与を行わない過冷却凍結法による孵化率を調査し、本年度報告書通りの成果進捗が認められたため、現在までの達成度をおおむね順調と判断した。これらの成果の一部は国内学会で口頭発表し、国内専門雑誌にて論文報告を行った。 アルテミア水和凍結胚の孵化率による凍害評価法の目的は、凍害モデル系による中立的な評価にあり、既存の過冷却凍結法との比較から磁場凍結効果を調べられることが大きな利点である。本年度は変動磁場付与と定常磁場付与の2つの方向から詳細に検討したが、調べた限りにおいて、定常磁場仕様でのみ若干の改善が認められた。ただし、アッセイ実験はまだ進行中であり、最終的な結論は次年度に持ち越される予定である。なお、アルテミア水和凍結胚を用いた本研究は、食感などの多くの質的要因が考慮される冷凍食品に対する変動磁場自体を否定するものではなく、冷凍食品の直接的な評価は別途行われるべきであろう。本年度はこれらの磁場凍結法のほか、過冷却専用庫による植氷凍結温度によるアルテミア孵化率の評価実験も行った。植氷温度別の過冷却凍結に応じた孵化率データが得られたことは、過冷却凍結に関する優位性をさらに裏づける重要な成果の一つであると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に得られた成果より、アルテミア水和凍結胚の孵化率に基づいた凍害評価により、従来の急速凍結法に比べ、過冷却凍結法の凍結障害の軽減が強く示唆された。しかし、今後の磁場付与の方法は、本年度までの孵化率成績から定常磁場に限って実施し、その相乗効果の有無を判断していく方針である。また、磁場を付与しない過冷却専用庫を用いた植氷凍結温度による孵化率成績は非常に興味深いため、植氷温度幅を広げていくなど引き続き次年度も継続していく。 最終年度となる次年度は、本年度までに得られたデータから、孵化率の違いに応じて水和凍結胚内部の状態を調べ、凍結障害の原因となったものを出来る限り究明していくことが大切な課題である。このため、示差走査熱量測定を用いた内部の氷晶状態の熱学的分析を本年度に引き続き行う予定である。さらに、最終年度では、本学に新たに設置される走査電子顕微鏡の本格的な稼働を待って、凍結前後の微細構造の物理的な構造破壊などが認められるかどうかも調べていく。この走査型電子顕微鏡にはクライオステージが組み込まれており、凍結した試料を低真空状態でありのまま観察することが可能である。本研究期間内に、胚内部の微細な細胞内構造が調べられることは有意義であり、研究の推進におおいに役立つと考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の主な使用計画は、これまでと同様、アルテミア水和凍結胚の孵化率アッセイに関わる研究に用いられる予定である。アルテミア水和凍結胚による凍害評価アッセイは使用する試料や試薬が比較的安価であり、孵化率の測定も多額の経費を要しないことは大きな利点となっている。従って、これらの研究に関わる使用計画については従前通りである。しかしながら、次年度は水和凍結胚内部の状態を調べ、孵化率変化の原因解明にも努めていくため、示差走査熱量測定装置やクライオ型電子顕微鏡を運用する経費を見込んでいる。 具体的には、示差走査熱量測定に必要なアルミ製あるいは銀製パン、及び温度コントロールに不可欠な液体窒素のほか、クライオ型走査型電子顕微鏡の観察で必要なクライオステージの各種備品(クランプステージ、試料キュベットなど)や、その温度維持に必要な液体窒素などに対する用途である。いずれも次年度の研究遂行に必須であるため、限られた研究予算を厳格に使用していく方針である。
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Research Products
(3 results)