2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23651265
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
安藤 究 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 准教授 (80269133)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流 |
Research Abstract |
今年度は、生命保険という「死の商品化」とジェンダーに関して、国際比較ではトルコでの、国内では勤務地近辺での聞き取り調査をおこなった。 国際比較で、トルコでの現地調査の基本的体制作りを第1回目の渡航でおこない、第2回目で予備的な聞き取り調査をおこなった。大都市のイスタンブールと首都のアンカラ、また地方都市のチャナッカレでの調査協力者が確保出来た。特に変貌が著しい地方都市のチャナッカレにおいて、当地の大学に勤務している、日本の農村研究で熊本大学にて博士号を取得した社会学者に協力を得られるようになったことは、非常に大きな収穫であった。 アンカラでは、アンカラの大学の博士後期課程に在学しており、トルコとでの生活経験が豊富な日本人大学生の協力を得られることとなった。当該研究についても関心を示しており、比較的広範なトルコ人とのネットワークのもとで、アンカラ近郊の農村での調査の見通しが得られた。イスタンブールでは、以前から知己を得ているトルコ人と、トルコ有数のボアジチ大学に研究員として滞在している日本人大学院生(社会学専攻)の協力を得られることとなった。 2回目の現地での予備調査は、日本語に堪能なトルコ人社会学者がいるチャナッカレでの聞き取り調査を中心とした。そこでの結果を、今後の調査に反映させるという狙いである。調査対象者もその社会学者に選定して頂き、「経済発展・社会の変化のもとで、家族の危機に対してどのように対応しているか」を中心として、30代~50代の既婚女性に聞き取りをおこない、興味深い回答が得られた。 国内に関しては、郵便局の簡易保険のエージェントが男性であることが、具体的なコミュニケーションによって信頼を獲得するのではなく、所属組織への社会的な信頼によるという仮説をサポートするようなコメントが、予備的な聞き取り調査から得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「概ね順調」であるのは、生命保険への態度(=近代化・産業化の進行のもとで、家族のメンバーの死に対して市場を通じた対処を行うことへの態度)の調査が、トルコと国内で実際に出来、また、興味深い結果が得られたからである。 聞き取り調査は、「経済成長のもとで、家族の危機に対してどのように対応しているか」を中心におこなわれた。その結果は、これまで西洋社会とアジアの経験から得られた、経済発展のもとで、文化や歴史・社会構造が異なるにもかかわらず、家族に関して共通した態度が発達するという可能性を支持するものであった。特に興味深かったのは、家族のメンバーの「死」に対して市場を通じて対処することのジレンマは興味深い反応であった。すなわち、「現実的な生活のことを考えると生命保険は必要だ」という態度と、莫大な保険金は、「愛する夫の死」によって得られる「冷たいお金」であるという態度の両方が見られたということである。 予備的な聞き取りをおこなう中で、当初可能性を考えていた、宗教と「死の商品化」のバッティングは、予想していたような階層・地域の相違では現れていない可能性も出てきた。アメリカでは19世紀中頃までは、人の死を莫大なお金に換える生命保険は神を冒涜するものとしてキリスト教と生命保険の対立が見られたが、予備的な聞き取り調査の段階ではあるが、今のところトルコではそれが見られない。 他方、2002年以降の政治的状況の推移のもとで、新興の宗教的なミドルクラスの問題という課題が浮かび上がってきた。この新たな課題は、アジア研究で世界的に高名なトルコ人研究者(ボアジチ大学)との討論の中で得られ、この問題に関連して丹念な調査を行ったポストドクトリアルの研究者を紹介して頂いた。その研究者は現在ハンガリーにおり、今回の研究期間内に直接教えを請うことは難しいことも考えられるが、今後の新たな展開の手がかりが得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策については、(1)聞き取り対象の属性の範囲を広くすること、(2)聞き取り調査だけでなく、トルコにおける生命保険会社の販売戦略についての情報を集めること、(3)国内の調査地域を広げること、(4)学会で途中報告をしてフィードバックを得ること、を考えている。 今回のインフォーマントは大学関係者を通じて協力を依頼したため、比較的「近代的態度」が強いトルコ人主婦という性格を持つ層に偏っている可能性が考えられる。莫大な保険金は「愛する夫の死」によって得られる「冷たいお金」であるという、西洋近代家族の愛情言説に呼応したような反応が、近代的態度がそれ程強くない社会的グループにおいても見られるかどうかを検討する必要があり、より広い範囲のトルコ人の聞き取りを調査をおこなう必要がある。特に予備的な聞き取り調査をおこなったチャナッカレという地方都市は、人口規模は小さいが大学が重要な都市の構成要素として発展してきたため、近代的態度ということでは、他の地域での調査も肝要となる。 トルコの生命保険会社の販売戦略についての情報を集めるという方策は、日本の生命保険会社が、「愛情」をキーワードに、「冷たいお金」というような反応を突破する戦略を繰り広げてきたことに鑑みてのものである。広告に当たっては、生命保険への抵抗を小さくするような戦略がとられると思われるため、広告の分析も有益となることが考えられる。 国内の調査に関しては、当初の計画に記したとおり、予め選定した地域での調査を順次行っていきたい。 (4)については、ポーランドでのワークショップで報告することを予定している。生命保険産業への文化的・社会的要因影響については"embeddedness"という概念が鍵となるが、このキーワードによるワークショップが開催されるので、そこで報告して今後の研究について示唆を得たいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
国際比較に関しては、平成24年度は、イスタンブールとチャナッカレでの追加の聞き取り調査と、アンカラ及びアンカラ近郊の農村部での調査、第三番目の人口規模で、イスタンブールともアンカラとも性格が異なるイズミールでの調査を計画している。予算が限られているので、実際の渡航は2回になると思われる。1回についての推定費用は、以下の通り。交通費(航空運賃) 160,000円 宿泊費 8,000円 ×10日 通訳謝礼 10,000円×7日 計 310,000円 ※国際比較調査の全体では、31万×2回 国内調査に関しては、H23年度は勤務地近辺での聞き取りしか出来なかったので、異なる性格の地域での聞き取り調査をおこなう。具体的には、鹿児島、石川県、北海道を予定している。これらの地域の選定理由は、家族のあり方が異なること(鹿児島、北海道)、浄土真宗の組織化の影響(石川県)に鑑みてのことである。交通費 航空運賃 鹿児島往復 58,000円, 北海道往復 68,000円, 鉄道運賃 金沢往復 15.600円,宿泊費 2泊×3回 48,000円 国内旅費 合計 189,600円 生命保険・トルコ関係図書に関しては、昨年度購入のものに加えて、60,000円分を予定している。また、文具代としては10,400円を予定し、以上の合計は本年度分の900,000円となる。
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