2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23652012
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
中尾 健二 静岡大学, 情報学部, 教授 (70022316)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 現代ドイツ / 記憶の政治 / 記念碑 |
Research Abstract |
本研究は、対象を現代ドイツにおける「記憶の政治」のための施設にしぼり、記憶のためのもろもろの施設(記念碑、警告碑、建築物、彫刻、オブジェ・・・)が、いかなる政治文化を背景に設立されるにいたったか、またそれらの施設がどのように人びとに受容され、いかなる政治文化の涵養につながっているかを明らかにしようとするものである。 国立の追悼施設であるノイエ・ヴァッヘやホロコースト警告碑といった施設は、世論の動向や行政の政策とならんで、その表象芸術性を無視できないものであるので、芸術批評と社会思想史ないし政治思想史的記述とを統合することは避けられない。こうした作業をつうじて施設のもつ公共圏における意義と影響力を考察することが初めて可能になると思われる。この作業を通じて原爆慰霊碑と靖国神社に象徴される戦後日本における「記憶の政治」を総括するために、本研究はその比較対照項を提示しようとするものである。 平成23年度には、12月下旬から1月初旬の冬休み期間を利用し、上記の施設が集中しているベルリンを訪れ、現地調査を行った。調査対象は、ノイエ・ヴァッヘ等の数カ所であり、資料収集、画像の撮影などを行ったが、なによりも経年的変化を知ることができたのは貴重であったと思う。ドイツにおける「記憶の政治」がいかなる方向へ進みつつあるかを体感することができたからである。現在これらの経験に基づき、資料の整理と理論的考察を進めつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度計画どおり、現地調査を中心に組み立て、平成23年12月下旬から翌1月上旬にこれを実施した。調査地域は記憶のための諸施設が集中しているドイツ連邦共和国首都ベルリンに絞りこんだ。主な施設を挙げれば、1993年からケーテ・コルヴィッツのピエタ像を据えた国立の追悼施設Neue Wache、ナチスによる焚書を記憶に留めるために建造されたミハ・ウルマン作の「図書館」、リベスキンド設計のベルリン・ユダヤ博物館、十年にわたる大論争の末にベルリン中心部に建造されたホロコースト警告碑、ドイツ鉄道が保存・建造したグルーネヴァルト駅17番線などである。郊外にはザクセンハウゼン強制収容所跡が保存されているが、これは社会主義=ドイツ民主共和国時代に反ファシズム闘争の記念碑として保存されるにいたったもので、いわば社会主義時代のドイツをもその地層のなかに取りこんでいて興味深い。オリジナルな施設の保存は、保存する主体が何であるかをも語っているといえよう。 これらの施設の表象芸術ないし表象性を中心に、その成立に行政および公共圏にいかなる動きがあったのか、建造後にそれらが公共圏でいかなる機能・意義を担っているかの観点から集中的に調査を行い、研究課題に対応した文献資料・映像資料を新たに加えることができた。とくに建築物やオブジェの場合、観覧者の視点、その視点の動線からえらえるイメージ、さらに視覚のみならず身体感覚的な受容も問題になるのであり、実地に体験できたことは貴重な経験となった。
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Strategy for Future Research Activity |
映像資料の整理・編集作業にあたる。しかし、これは理論的な枠組みを確定していく作業と相即的であることは言うまでもない。したがって、内外の文献資料の検討が不可欠でもある。これをドイツにおけるこの分野ではスタンダードな著書であるPeter Reichel: Politik mit der Erinnerung -Gedaechtnisorte im Streit um die national-sozialistische Vergangenheit- , Muenchen 1995.や国際的な比較の観点から第二次世界大戦後の日・独・伊における記憶の文化を扱った論文集で、日本からは柳父圀近、石田勇治、三島憲一が寄稿しているChristoph Corneliessen u. a. (Hg.):Erinnerungs- kulturen -Deutschland, Italien und Japan seit 1945- , Frankfurt am Main 2003.などの文献によって行う。これらの著書は、社会ないし政治思想史的なコンテクストに主にかかわるものである。こうした歴史的な背景を各施設のもつ美学的な性質の分析とそれが公共圏に及ぼす影響力の考察とに結びつける。 これによって本研究を映像とテクストからなる一つのまとまりのある全体として公共圏への発言としたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
映像・文献資料の整理と考察とともに、理論的な枠組の精緻化のために内外の映像・文献資料が必要になる。前者のために老朽化したパソコンの更新と映像処理ソフトウェアの購入を予定している(20万円を予定)。後者のためには、内外の記念碑、ひいては建築・美術と政治ないし公共圏の問題系にかかわる書籍・DVDなどの購入を予定している。それ以外では、研究発表のための旅費などである(25万円予定)。 次年度に5万円あまりを繰り越したが、これは海外文献の入手に期日を要すと判断したために当該年度内に処理できなかったものである。次年度の映像・文献資料の購入に繰り込む予定である。
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