2012 Fiscal Year Research-status Report
信用危機と革命―ジャック・ネッケルと十八世紀末フランスの政治・経済論の動揺
Project/Area Number |
23652013
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
王寺 賢太 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (90402809)
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Keywords | フランス啓蒙 / フランス革命 / 政治思想史 / 政治経済学史 / 財政 / 公論 / 国民主権 / 国際研究者交流 |
Research Abstract |
今年度の研究は、とりわけ1770年代から1780年代初頭にかけてのネッケルを中心とするフランス政治史・政治経済学史に焦点を当てて行なわれた。そのもっとも顕著な成果としては、研究代表者の従来の『両インド史』研究を総括する博士学位論文『ヨーロッパ近代の不安:ギヨーム=トマ・レナルの『両インド史』の諸起源』がある。パリ西大学に提出され、最高の評価で学位審査を通過した、この1200ページに及ぶ論文は、とくに1760年代初頭のインド会社改革から、1780年代初頭の『両インド史』第三版における財政論まで、レナルとネッケルのあいだに緊密な協業が存在したこと、さらにこの啓蒙の商業史の中心に、「財政=軍事国家」の問題ー国際平和とヨーロッパ各国内における財政再建の問題ーがあり、それが第三身分を中心とする「国民」の政治的権利の要求と直接に結びついていることを示す仕事である。代表制・公論・信用のトライアングルに依拠して進められたネッケル/レナルのインド会社改革およびフランス王国改革の試みは、既に1780年代末の段階で、『両インド史』の内側から、ディドロが国民の政治的権利の要求を高く掲げる一連の政治的断章で、その限界を示唆されるものでもあった。 本研究課題にかかわる業績として、ほかに昨年刊行されたアルチュセールのルソー講義からルソーの『不平等起源論』に新たな光を当てる論文、フーコーの『カントの人間学』から出発してフーコーの18世紀論に光を当てるインタビュー、あるいは現在の日本政治の文脈で、財政問題の昂進を背景に政治問題の道徳化が進んでいることを批判した論文もある。 また、本年度には、海外から研究協力者としてベルトラン・ビノシュパリ第一大学教授を招聘し、十八世紀後半から革命期を通じ、十九世紀初頭までの「公論」の概念の同様について、京都大学人文科学研究所で講演会を開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フランス18世紀後半の政治史・政治経済学史を、ジュネーヴの銀行家からフランスの財政担当官となり、フランス革命の勃発に大きな影響を与えたネッケルを中心において、財政問題の解決という問題を中心において再検討するという本研究の試みは、とりわけ18世紀末のフランスおよびヨーロッパ・アメリカを含む大西洋両岸でのベストセラーであり、「アンシャン・レジームに抗する戦争機械」(H.ウォルプ)とも目されてきた『両インド史』の綿密かつ包括的な研究から生まれたものであり、この『両インド史』研究に一応のまとまりをつけることができたのは、大変重要な成果であった。 また、この研究の過程で、フランスでの研究発表・資料調査、およびアメリカ合州国、アルゼンチンでの資料調査を行なった。日本では見られない資料を実際に調査し、現地の研究者との関係を強化する意味でも、また、そもそもフランス18世紀の政治問題を、それがおのずからそのうちに孕んでいた国際関係の問題を考慮に入れて、広い視野で検討するためにも、以上の研究旅行は大変有意義であった。この研究者国際交流の観点からは、さらにベルトラン・ビノシュパリ第一大学教授招聘も特筆される。この招聘は、ただ研究代表者の本研究課題経の取り組みにとって有意義だっただけでなく、往々にして英米系に傾きがちな現在の日本の西洋政治思想史研究・18世紀研究の現状にあって、フランスの第一線の研究者とのコンタクトを生み出したという意味でも大きな価値のあるものだったと自負している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究最終年度の次年度には、当初、ネッケルの第二次・第三次財務総長官担当期に焦点を当て、フランス革命勃発前後の政治・経済論の動揺を跡づける予定であったが、これまでの研究の進行に鑑み、予定を変更して、むしろ革命期以前のフランス啓蒙期における「国民主権」の思想の系譜を辿ることとしたい。実際、ネッケルの財政再建策=フランス王国改革策はフランス革命勃発後ただちに状況に追い越されてしまうが、その際に大きな役割を果たしたのが、国民の政治的権利の拡大の要求であり、国民主権の要求であった。財政問題とともにフランス革命期に浮上する、政治道徳についての議論も、この新しい政治的主体の立ち上げの要求に沿って出て来たものと考えられる。しかし、その要求にせよ、政治道徳の問題の浮上にせよ、それ自体はフランスの言論の場では、すでにネッケルの登場以前から、複数の啓蒙の哲学者たちによって、それぞれ異なったやり方で唱えられていたものでもあった。 この系譜を跡づけるために、私たちはとりあえず、モンテスキューの『法の精神』、なかでもその「一般精神」論を出発点にとる。あくまでも前「歴史主義」的な政治思想の枠組みのなかではあるけれども、モンテスキューはそこで、立法者が立法行為にあたって参照すべきもっとも重要なレフェランスとしてある国民に一般に分け持たれた心性・習俗を挙げていた。このモンテスキューの議論から出発して、そもそも『政治経済論』に端緒を持つルソーの「一般意志」論、またルソーの議論にきっかけを与えただけでなく、晩年の『両インド史』への寄稿まで独自の展開を見せ続けたディドロの「一般意志」論への意向を跡づけることで、啓蒙期から革命期にかけての「国民主権論」の大まかな流れを把握できると考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、以上の研究プログラムに沿って、もっぱら①資料調査・研究発表のための国内外の旅費、②書籍資料購入費にあてる。とくに2013年はディドロ生誕三百周年にあたり、日本でもフランスでもディドロに関する多くのシンポジウムや講演会が予定されている。そのうち、9月には、研究代表者自身が受け入れ研究者となって、科学研究補助金海外研究者招聘事業の一環として、本研究の海外研究協力者であり、現代ディドロ研究の第一人者であるピサ大学教授ジャンルイジ・ゴッジを日本に招聘し、東京・名古屋・京都で講演会を組織する。また、11月にパリで予定されている国際シンポジウム「ディドロと政治」にはすでに研究代表者自身参加を決めている。①の旅費は、もっぱらこれらの研究集会に参加するための旅費に充てられるであろう。また、その際、研究発表のためのフランス語原稿の校正のために、謝金も必要となる。②の書籍資料購入費については、もっぱら、政治思想・経済思想史関係の研究文献の購入に充てる予定である。
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Research Products
(6 results)