2012 Fiscal Year Research-status Report
近世初期障屏画における金の使用と宗教思想の関係に関する調査研究
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23652017
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
畠山 浩一 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (90344639)
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Keywords | 美術史 / 思想史 / 仏教 / 絵画 |
Research Abstract |
当該年度の研究については、おおむね予定通りの進行状況となった。まず、作品の調査については、国内のべ22の博物館および美術館において、作品の実見調査を行うことができた。その過程で調査対象とした作品は約90を数える。調査先、作品数ともに前年度を上回っており、作品の調査、データの収集については大きく進展したと言える。 調査対象については、屏風絵中心だった前年度調査より範囲を広げ、絵巻や掛け軸等の小作品についても調査を行った。これにより画面の大きさによらない、絵画における普遍的な空間表現、画面構成、金の使用法等について考察することができた。また、大画面作品と小画面作品との相違点についても比較考察することができた。一方で、当該年度は調査作品の製作年代についても対象を広げ、より古い時代、特に12世紀から15世紀にかけてのいわゆる中世についても、多くの作品を調査することができた。これにより、日本絵画における伝統的な空間表現とはなにかを検討し、ひるがえって近世絵画の独自性、新奇性についても考察を深めることができた。 一方、近世日本人の感覚的規範性に関連する、宗教および思想等の研究については、前年度に引き続き、研究書の渉猟をおこなった。とくに日本人の価値観、行動論理に、基本的かつ大きな影響を与えた仏教思想の研究について、ある程度注力して知見を深めるよう努めた。くわえて、物語説話等、いわゆる文学作品に表れた宗教性に関する問題についても、最新の研究状況の把握に努めた。これは、絵画と同じく、一種周縁となる分野に仏教がどのような影響を与えたのか、参考材料とするためである。 以上、当該年度においては、前年度に比して研究対象を広げ、より多くの情報を集めることに努めた。特に作品の実見調査については予想以上に多くの機会を得て、データの収集を進展させることができたといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度に予定していた研究は、おおむね順調に進んだといえる。まず、作品調査については、想定以上に多くの作品を調査することができた。調査対象を広げたこともあり、前年度以上に積極的に調査旅行に出かけたことが功を奏したといえる。ただ、当初予定していた海外での調査は、所蔵先とのスケジュールが合わず、断念せざるを得なかった。しかし、その分国内での調査に専念することができたため、少なくとも数量の上では想定していた以上の成果を上げられたといえる。なお、海外の調査については、引き続き機会を探っていきたい。 実見調査の際は了承を得られたものについてデジタルカメラで写真を撮影し、一方で大型図版集などから作品画像をスキャンして、画像データの収集に努めた。これらのデータについては、随時分類し、データベース化を進めている。予想以上に作品数が増えたこともあり、全体的な進捗状況については計りきれない部分があるものの、データ化の項目やデータベースの形式、体裁についてはほぼ固められたといえる。 それらのデータベースをもとに、金の使用法などについて傾向の分析を行っているが、現状ではデータの分類整理を優先しているため、分析作業は緒に就いたばかりである。ただ、着実に作業は進んでおり、徐々にではあるが成果を上げつつあるといえる。 一方、近世の世界観、日常生活における宗教的感覚の反映に関する問題は、考察対象を文学にまで広げつつ、順調に知見を深めることができた。こちらは史料の博捜から一歩進め、論点を絞っての仮説立案とその検証へと、研究の段階を次第に上げている。ただ、専門外の分野に関わる問題が多く、試行錯誤を繰り返しつつ、慎重に進めているのが実情である。 全体的に見て、当該年度は作品の調査に重点を置きつつ、そこで得られた成果を元に、思想史的検証をどのように進め、関連づけていくか、その方向性を探ったということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度ということもあり、研究の主軸を作品の調査から内容の分析、検証へと移していきたい。ただ、前年度に実現できなかった海外の調査については引き続き機会を探り、国内においてもいくつかの重要作品について、詳細な写真撮影を伴う調査を行いたい。特に総金地の背景に人物のみを配した遊楽人物図、およびほぼ同主題ながら背景を素地とする作品群について、集中して調査を行いたい。これらの作品群は本研究テーマの出発点となったもので、多数の作品を実見調査することができたいま、あらためてその特徴を見直し、総体的な研究の進展へといかしたいと考える。 一方、データベースについては順次作品および項目を追加しつつ、内容の分析と仮説の構築、検証を進めていきたい。ただ、前年度に想定以上の作品を調査したため、データの追加と分類が追いついていない部分もあり、まずはその作業を完了させることを優先したい。 また、蓄積したデジタルデータを画像処理することで、仮説の検証に役立てたいと考える。具体的には金地作品の素地化と、その逆に素地作品の金地化を試み、それぞれの作品がなぜそうした形式をとったのか、両者は置換可能なのか否か、具体的に検証していきたい。 思想史的側面においては、仏教経典のなかで空間荘厳が具体的にどう表されてきたか、それを宗教者はどう理解していたかについて探り、さらにそれが一般人へどういった思想的、感覚的影響を与えたのか検討したい。その際に重要となるのは、随筆や日記、物語説話など、純仏教的言説ではない、より一般的なテキストの分析であると考える。淵源と原因を探る以上に、実際に人々の感覚、行動に仏教がどういった影響を与え、規範性を持っていったのか、具体的な結果部分に主眼を置いて考察していきたい。 以上、実作品の精査と、デジタル処理による仮説の検証、思想認識との比較検討を行い、総体的な成果をまとめていくこととする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
最終年度の研究費については、成果をまとめるための作業関連費が増大していくものと思われる。 まず旅費については、海外への渡航を予定しているが、これは本来前年度に計画し年度末までその実現を図りながら、諸事情により実行できなかったものである。そのため、その費用に充てるつもりであった予算が当該年度に繰り越しとなっており、本年度に実現可能となれば、基本的にその繰り越し分をあてたいと考えている。一方、国内についても関東、関西圏を中心に複数回調査を行う予定であり、前年度ほどではないにしても、ある程度の予算を割く必要があると考えている。 物品についても、海外調査等との兼ね合いで、前年度購入予定だった一眼デジタルカメラを購入し得なかったため、まずはその購入を早い段階で行い、調査に活用したいと考える。また、調査先での情報収集、およびデータベースの閲覧等の便宜を図るため、タブレット型PCの購入を考えている。これに関連して新たなアプリケーションソフト、ケーブル、通信用SIMカード等の周辺機器も購入したい。一方、実見調査した際に収集した写真等の画像データが増大していることに加え、画像処理による仮説検証作業を進めるにあたって、データを蓄えるためのハードディスクも必要になると思われる。図書についてはデータベース作成に必要な大型図版集等を前年度に引き続き購入予定である。 謝金等については、データベースの作成、調査の補助、資料の収集などの目的で、学生に作業を依頼することを想定している。特に実見調査で撮影収集した画像データは予想以上に多く、その分類整理は急務となっている。そのため、複数の人数による並行作業が必要になると予想される。 また、最終年度ということで、成果をまとめることに伴う資料の収集、写真の現像、論文の作成に関連して、通信費や印刷費がこれまで以上に増大することが想定される。
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