2011 Fiscal Year Research-status Report
古代ギリシアの礼拝像の研究――「古き像」と「新しき像」の神性
Project/Area Number |
23652018
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
芳賀 京子 東北大学, 文学研究科, 准教授 (80421840)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 美術史 / 西洋古典 / 考古学 / 宗教学 |
Research Abstract |
古代ギリシア彫刻の研究は伝統的に造形面からのアプローチが重視されており、加えて1980年代からは歴史的・社会的コンテクストの中での読解も盛んとなった。だが喜劇作家アリストファネスが「新しき像は技術においてまさり、人々も驚嘆するが、神の想念(神性)に関しては古き像におよばない」と述べているように、古代ギリシアの神像の価値はテクネー(技術、芸術)だけでは測り得ない。そこで本研究は、ギリシア彫刻の神像を美術品としてではなく、信仰が生きていた多神教世界の古代ギリシア人の目から見た宗教物として考察することを目的とする。 平成23年度には伝説の《トロイアのパラディオン》に関する古代文献を精査したところ、当初の目的とは異なり、本来、別のものであった《パラディオン》と、トロイアのアテナ神殿の《アテナ像》が混同されていく過程が明らかとなった。これについては、現在さらに考察を継続中である。 2月には、ギリシアのアテネ国立博物館とラムヌス遺跡倉庫にて作品調査をおこなった。《ラムヌスのネメシス》の台座の浮彫については、詳細な調査・検討の結果、報告者が考えていた図像解釈が妥当であることを裏付ける証拠が得られた。これについては、学会での発表なども視野に入れながら、現在、論文を執筆中である。 アテネにおいてはその他、礼拝像だという指摘のあるアッティカ地方ディオニソス出土の《ディオニュソス座像》断片、アッティカ地方ダフネ出土の《庭園のアフロディテ》断片、アクロポリス出土の《アルテミス・ブラウロニア》頭部断片などについても、撮影や調査をおこなうことができた。アテネのイタリア考古学研究所でも、効率よく資料収集することができた。その他、ギリシアの礼拝像の遺構として最も古い時代に属するアミュクライのアポロン神域の発掘に携わるベナキ美術館ブリゾス博士とも情報を交換し、今後も継続的にコンタクトをとることとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
《パラディオン》の研究は、当初考えていたこととは異なる結果が出たため1本の論文にすることには困難が生じたが、礼拝像全体の研究のためにはむしろ有意義であった。最終年度に研究全体の成果をまとめる際に、この成果を利用することにしたい。《ラムヌスのネメシス》に関しては、なかなか調査許可が得られず実施が危ぶまれたが、なんとか年度内に調査を完了することができた。論文の完成は次年度におこなう。
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Strategy for Future Research Activity |
都市の守護神像としての「古き像」の中で例外的にその像容がよく伝わっている《エフェソスのアルテミス》について、コピー作品を検討する。『古典神話図像学辞典』(LIMC)に既に136の作例が挙げられているので、写真購入なども利用しながら図版をそろえ、その上で冠や光背や衣に浮彫された図像を丁寧に読み取る。その際、オリジナル像にさかのぼることではなく、各々の図像タイプに込められた意味や役割を知ることを目指す。 これに並行して、《ラムヌスのネメシス》の論文を完成する。リュコスラ出土の《デスポイナ、デメテル、アルテミス、アニュトス》に関する発掘報告や先行研究文献からデータを蒐集し、同時に調査・撮影の許可申請などをおこなう。9月にアテネ国立博物館とリュコスラ博物館で現地調査、写真撮影。アテネのイタリア考古学研究所で資料収集。帰国後に資料整理と考察、アーカイブ整備を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は《ラムヌスのネメシス》の台座調査の許可が出発日までに得られず、調査の実施が危ぶまれたため、アテネでの調査を別の研究課題による調査とともに1度の渡航で行い、そちらから渡航費を捻出した。次年度は、遅れ気味の論文執筆を効率よく進めるためにアテネでの滞在を長めにとり、イタリア考古学研究所やドイツ考古学研究所などで資料収集・論文執筆をおこなう予定である。 《エフェソスのアルテミス》に関しては、書籍購入、文献取り寄せ、写真購入が多ければ多いほど、研究を緻密なものにすることができる。また、今までの調査で得た写真資料は、謝金などももちいながら、アーカイブとして蓄積していくことにしたい。
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Research Products
(1 results)