2012 Fiscal Year Research-status Report
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23652026
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Research Institution | Nagasaki Junshin Catholic University |
Principal Investigator |
浅野 ひとみ 長崎純心大学, 人文学部, 准教授 (20331035)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
児嶋 由枝 上智大学, 文学部, 准教授 (70349017)
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Keywords | イエズス会 / 絵画技法 / ジョヴァンニ・コラ / 初期洋風画 / 円錐形鉛インゴット / 信仰具 / キリシタン / 府内型メダイ |
Research Abstract |
7月に小倉城で出土した府内型メダイの蛍光エックス線分析他を行った。また、日大(東京)で行われた文化財保存修復学会で口頭発表とポスターセッションで茨木市のキリシタン遺物に関する調査結果を計3本発表した。一つは、銅板油彩≪聖母子像≫と長崎の≪雪のサンタマリア≫との比較(口頭発表)、他は木製および象牙製の≪磔刑像≫の制作事例と紙本著色≪マリア十五玄義図≫と≪聖女立像≫の製作技法に関するものである。 さらに、同月、茨木で発見され、現在は東京大学図書館に所蔵されている銅板油彩画≪救世主像≫の光学的調査を行った。茨木市千提寺および下音羽のキリシタン遺物の金属製信仰具に関しては、7月と8月に蛍光エックス線分析を行った。10月に浅野は西南学院大学(福岡)で行われた考古学協会のキリシタン関係の発表会に参加した。2月には、天草でいわゆる≪陣中旗≫の光学的非破壊調査を行った。 これらの研究成果の一部は、『純心人文研究』19号などに英文で発表した。ここでは、1587年以前に府内で独自に製作された「府内型メダイ」の形態分類とその検証、さらに流入プロセスについてまとめた。特に流入プロセスついては、円錐形鉛インゴットとしてタイからもたらされたことが判明し、大きな成果を挙げた。 また、協力研究者の武田は、茨木市のキリシタン遺物群のうち絵画の制作技法について茨木市立文化財資料館や京都大学総合博物館における講演で一部報告した。 児嶋は、イタリア美術とキリシタン美術との関係について調査をすすめると同時に、ローマのイエズス会古文書館で入手したドキュメントの読解に従事した。とりわけイエズス会が長崎で主催した画学校学生名簿の読解から得られる情報は貴重であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
茨木市のキリシタン遺物はほぼ調査を終え、2012年度は地域外に流出した作品の追跡調査も行うことができた。また調査結果は学会や講演、論文等で積極的に発信することができた。 これまでの成果は英文で発表しているが、それによって、現在世界中で確認されているメダイの中でも古い段階に位置付けられる府内型メダイと、これまであまり認知されていなかった16世紀の主要貿易品だった円錐形鉛インゴットについて海外に情報発信できるようになった。 また、分担研究者の児嶋は、イタリア美術とキリシタン美術に関し、日本二六聖人記念館(長崎)所蔵の≪雪のサンタ・マリア≫像の元絵がシチリアにある同主題画である可能性が高いことを明らかにし、大きな成果を挙げた。
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Strategy for Future Research Activity |
千提寺(茨木)では、高速道路を通すために、キリシタンにとっては聖地であったクルス山が切り崩されてしまったが、同時に、数々の考古学的発見があった。伸展葬のキリシタン墓とみられる集合墓地も発見されており、今後、信仰具が発掘される可能性は非常に高く、伝世キリシタン遺物の整理と研究成果の発表は、速やかに行われるべきである。最終年は、これまでの成果をまとめることに集中し、可能な限り、高精細写真を収録して、後世の研究者にも役立つような報告書を出版したい。 今後は、茨木市の作品群の調査結果を踏まえて、全国のキリシタン遺物の自然科学的調査を進め、技法や組成についての客観的データを蓄積する。また、可能な限り、イタリア語、スペイン語で書かれた技法書原典を検証し、キリシタン時代日本に伝わった絵画技法を明らかにする。 また、海外の年代の確認できるキリシタン遺物の調査と、国内でまだ鉛同位体比及び蛍光X線分析データを収集出来ていない資料(原城(一部未収集)や神戸市立博物館所蔵資料等)のデータ収集が必要である。 児嶋は、イエズス会古文書館で入手したドキュメントの読解を続行し、また、日本二六聖人記念館(長崎)所蔵の≪雪のサンタ・マリア≫像とシチリアの聖母像の関連に関して、さらなる調査を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
協力研究者も含めて調査にかかわったメンバー全員で報告書を執筆する。内容は、茨木のキリシタン遺物を中心にして、高精細写真、赤外線写真、蛍光エックス線調査結果など、参加者の知力を結集したものとなるだろう。 児嶋は、ヴァチカン聖使徒図書館において、対抗宗教改革(カトリック改革)期における≪雪のサンタ・マリア≫崇敬関連の資料を中心に調査を進めるため、イタリア旅費に使用する。
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Research Products
(7 results)