2011 Fiscal Year Research-status Report
19世紀英国と明治日本における中世主義とジャポニズムーラファエル前派芸術の展開
Project/Area Number |
23652029
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
山口 惠里子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (20292493)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 国際情報交流 / アメリカ合衆国 / 連合王国 |
Research Abstract |
平成23年度は、(1)1851年ロンドン万博博覧会「中世部門」に関する言説の収集、(2)1862年ロンドン万博博覧会「日本部門」に関する言説の収集、(3)ジャポニズムが頂点に達した1880~90年代の日本の芸術・文化および日本の近代化に対する英国側の言説の収集に調査研究の重点を置いた。これらの言説は主に、イエール大学イギリス美術センターのフェロウシップを得てVisiting Scholarとして在外研究を行った同センターで収集した。ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館、ナショナル・アート・ライブラリー、大英図書館等での資料収集は、筑波大学の大学院生2名に依頼した。2名とも貴重な資料の収集・調査を行った。うち1名を、明治期からのラファエル前派に関する日本語文献データベースの入力作業のために雇用し、1980年代までのデータベースが概ね完成した。研究成果としては、招待講演「ラファエル前派の芸術と装飾ーロセッティ、バーン=ジョーンズ、ウィリアム・モリスを中心にして」(8月7日、鹿児島市立美術館)、口頭発表 "D. G. Rossetti's Medievalism: His Preference for Decorativeness" (9月13日、イエール大学イギリス美術センター)、口頭発表 "Pre-Raphaelite Medievalism and Materialism: D. G. Rossetti, Edward Burne-Jones, and William Morris"(10月4日、イエール大学19世紀芸術・視覚文化研究会)、口頭発表「ラファエル前派のファッションと明治芸術」(12月17日、筑波大学・ファッション文化研究学会)、口頭発表「ローマのカンパーニャとイギリス風景画ーターナーからエトラスカンズへ」(美術史学会東支部例会、1月28日)を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した「研究の目的」に沿って、ラファエル前派の中世主義とジャポニスムとの接触に関わる言説を1851年のロンドン万博博覧会から1890年代まで追跡した。1890年代に始まる日本側のラファエル前派に関する文献のデータベース(英語版)も、1980年代まで概ね完成した。 研究成果については、研究実績の概要に記載したように、美術館での一般の方々を対象にした講演、イエール大学での専門家を対象にした口頭発表、日本の学会・研究会での研究発表といったさまざまな機会で成果を発表し、多様な方々と交流をしながら、情報交換・意見交換をすることができた。これらのコメントやアドバイスを参照し、口頭発表をもとにした英語論文をアメリカ合衆国の学術雑誌に投稿した(現在、審査中)。また、平成23年度の研究をまとめた日本語論文を現在執筆中である。この論文は、平成24年度に刊行される図書のなかの一章として発表する。 研究実績の概要で記載した(3)の言説、資料については、現在も渉猟中であり、今後も資料の収集を続けて行う。 イエール大学での研究中、多数の研究者や学生と交流を深めることができた。イエール大学の研究者と平成25年度に開催を予定している国際シンポジウムの打ち合わせを行い、シンポジウムを円滑に行うことができるように準備を進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、明治日本におけるラファエル前派に関する言説の収集、およびラファエル前派の中世主義の影響をうけた明治の芸術家の作品分析を主眼において研究を遂行する。まず、明治期に刊行された雑誌の記事、図書、翻訳から、ラファエル前派に関する言説を収集し、分析する。これらの言説に関しては、すでに、ラファエル前派に関する日本側の文献としてデータベース化の作業をすすめているが、その作業とならんで言説内容の分析を行い、日本におけるラファエル前派受容のプロセスを明らかにする。また、その受容のプロセスと、明治期に来日した英国人芸術家や教師との関連も追跡する。さらに、ラファエル前派を受容した明治浪漫主義の作家や芸術家の作品を分析し、日本近代美術史のなかでラファエル前派の中世主義を捉え直す。 以上の調査研究のための資料は、国内外の図書館・美術館で収集し、調査する。日本では、東京芸術大学図書館、ブルヂストン美術館、石橋美術館等、国外ではロンドンのナショナル・アート・ライブラリー、大英図書館、テイト・ギャラリー等で調査研究を行う。平成24年9月よりテイト・ギャラリーで大規模なラファエル前派展が開催されるので、その展覧会に関連した文献や資料に発表される最新の研究成果をふまえて、研究成果を発表する。 このラファエル前派展は平成25年に東京に巡回するので、東京展の開催とあわせて国際シンポジウムを行う。展覧会の責任者の一人であるイエール大学の研究者とすでにシンポジウムの打合せを行い、人選も進めている。シンポジウムでの発表は論集のかたちでの出版を目指したい。シンポジウムの開催と並行して、平成25年度は明治日本の「日本人のための日本」運動で用いられたラファエル前派の中世主義に関する日英両方の言説の分析およびその影響をうけた作品の分析を行う。 3年間の研究の総括として、成果を論文としてまとめる。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の支払請求書において、24年度分の500,000円と、平成23年度の未使用額260,000円をあわせた、760,000円を直接経費として請求した。平成23年度の未使用額は、購入したコンピュータが見込額より安価で購入できたこと、購入予定であった図書の調査および複写をイエール大学図書館でできたことなどから発生したものである。当初、交付申請書では、平成24年度の直接経費は700,000円として申請したが、平成23年度の未使用額があるので、支払請求書では500,000円として請求し、差額200,000円は、平成25年度に予定している国際シンポジウムの開催費用にあてる。 平成24年度の所要見込額760,000円のうち、物品費(図書費)として230,000円、調査旅費として450,000円、データベース作成のための大学院生雇用費(人件費)として50,000円、その他インク代等として30,000を使用する。 平成25年度の所要見込額は計120,000円となる。そのうち、シンポジウムの講師を招聘する旅費(アメリカ合衆国と連合王国から3名、国内から1名を招聘する予定)850,000円、シンポジウムのための人件費・謝金として150,000円、物品費(図書費)として150,000円、その他インク代・ポスター作成費として50,000円を使用する。
|
Research Products
(5 results)