2011 Fiscal Year Research-status Report
欧米との比較を介した日本近代文学及び映画における死の表象の再構築
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23652055
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Research Institution | Otsuma Women's University Junior College Division |
Principal Investigator |
城殿 智行 大妻女子大学短期大学部, 国文科, 准教授 (00341925)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 日本近代文学 / 映画 / 死生学 |
Research Abstract |
「研究の目的」に明記した通り、日本近代文学及び映画における死の表象の歴史的な把握を試みる本研究において肝要なのは、厳密に言えば思考することも表象することも不可能な死が、言語及び映像によっていかに語り損ねられてきたのかをとらえようとする点にある。つまり単に死の表象一覧を製作するのではなく、むしろ死をめぐる表象の不可能性が、歴史的な観点から見て、どのように変移したのかを跡づけようと試みる点に、主眼がある。 そうした観点から日本近代文学をとらえ直した場合に、避けて通れない存在が、三島由紀夫である。作品の主題として繰り返し死を描き、死に対する屈折した態度を示し続けたばかりではなく、周知のように、半ば演出された自死を遂げる三島は、畢生の大作である『豊饒の海』4部作において、自身の死生観を集大成しようと試みた観がある。就中、三島が仏教への傾斜を深めた第3作『暁の寺』を中心として、題材に選択されたバンコク現地調査及び資料収集を試みた。『暁の寺』において主題化された輪廻転生は、4部作の末尾に表現された虚無感と並んで、作品全体の解釈を左右するばかりではなく、三島の死生観を評価する最も重要な論点であるように思われる。 また、「研究実施計画」に記載した通り、P・アリエスを軸として、西欧古典における死のイメージの変遷をふまえ、理論的な基礎を形作るため、イタリアのルネッサンス期前後を中心として資料収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、一般に流通する死の言語的・映像的なイメージを単に蒐集分類するのではなく、むしろ死を前にした表象の頓挫を扱おうとする本研究の理論的な基盤を固めるため、死のイメージを分析した数少ない規範となる、映画以前の図像を対象にしたP・アリエスの歴史記述を、現地において資料調査し、検証した。 一方で、「研究実績の概要」に述べたとおり、近代文学における死の表象の頓挫に関しても、調査を進めた。その両面から見て、研究はおおむね順調に進展していると考える。 しかし、「研究実施計画」にも述べた通り、実際にはアリエスの扱った表象を検証するだけでも膨大な量になってしまうため、当初の計画以上の進展だとは言い難い。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、前年度の課題を継続し、一方でアリエスの歴史記述の批判的な検討を中心として、欧米における死の表象の変遷を調査し、理論的な基礎を固めるとともに、他方では、三島に限らず、日本近代文学及び映画における死の表象の資料収集及び分析記述を進めていきたい。 なお、前者の現地資料調査を目的とした海外出張期間が3月末にならざるをえず、この執行伝票を4月に提出するため、平成23年度分の直接経費に若干の残額が生じた。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前述の事由により生じた残額は、平成24年3月末に行った出張旅費分として、平成24年度の直接経費と合算し、執行する。資料調査のための経費が必要であるため、平成24年度分の直接経費も当初予定通りの額面を申請し、主に海外出張経費として執行したい。
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Research Products
(1 results)