2012 Fiscal Year Research-status Report
欧米との比較を介した日本近代文学及び映画における死の表象の再構築
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23652055
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Research Institution | Otsuma Women's University Junior College Division |
Principal Investigator |
城殿 智行 大妻女子大学短期大学部, 国文科, 准教授 (00341925)
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Keywords | 日本近代文学 / 映画 / 死生学 |
Research Abstract |
「研究の目的」に明記した通り、日本近代文学及び映画における死の表象の歴史的な把握を試みる本研究において肝要なのは、厳密に言えば思考することも表象することも不可能な死が、言語及び映像によっていかに語り損ねられてきたのかをとらえようとする点にある。つまり単に死の表象一覧を製作するのではなく、むしろ死をめぐる表象の不可能性が、歴史的な観点から見て、どのように変移したのかを跡づけようと試みる点に、主眼がある。 そうした観点から日本映画をとらえ直した場合に、避けて通れない存在が、溝口健二である。1950年代以降、フランスにおけるカイエ・デュ・シネマ派の溝口評価を典型として、ロング・テイクやロング・ショット、そしてディープ・フォーカスが溝口の個性であると考えられてきたが、ノエル・バーチやデイヴィッド・ボードウェル以後の研究は、むしろ画面内における被写体の遮蔽と、オフ・スクリーンの活用にこそ、溝口の特質を認めようとしている。つまり、対象を直接に表象しようとはせず、むしろ肝心なイメージから視聴者の目を逸らそうとする、意図的なフレーム・ワークと、組織的な編集にこそ、溝口の特質があるのだといわれる。 換言すれば、『山椒大夫』における安寿の入水シークェンスを見れば明らかなように、決して直視しえない不在の焦点たる死を避けて、しかしなおかつそれをめぐって撮られるのが、溝口の作品なのである。今年度は、そうした溝口の特質を再考し、新たな観点をつけ加える新論を発表し、溝口の映像作品と文学の関わりをめぐっても、別論文で考察を加えた。 また、「研究実施計画」に記載した通り、P・アリエスを軸として、西欧古典における死のイメージの変遷をふまえ、理論的な基礎を形作るために、ルネッサンス期前後のイメージを精査する際には欠かすことのできない、ワシントンのナショナル・ギャラリー他において、資料調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、一般に流通する死の言語的・映像的なイメージを単に蒐集分類するのではなく、むしろ死を前にした表象の頓挫を扱おうとする本研究の理論的な基盤を固めるため、死のイメージを分析した数少ない規範となる、映画以前の図像を対象にしたP・アリエスの歴史記述を、ルネッサンス期以降の重要なイメージを多数所蔵するワシントンのナショナル・ギャラリーおよびニューヨークのメトロポリタン美術館他において、資料調査し、検証した。 一方で、「研究実績の概要」に述べたとおり、日本近代文学および映画における死の表象の頓挫に関して、2編の論文を執筆した。 その両面から見て、研究はおおむね順調に進展していると考える。 しかし、「研究実施計画」にも述べた通り、実際にはアリエスの扱った表象を検証するだけでも膨大な量になってしまうため、当初の計画以上の進展だとは言うのは憚られる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、前年度の課題を継続し、一方でアリエスの歴史記述の批判的な検討を中心として、欧米における死の表象の変遷を調査し、理論的な基礎を固めるとともに、他方では、三島や溝口に限らず、日本近代文学及び映画における死の表象の資料収集及び分析記述を進めていきたい。 また、今年度は研究を纏める年に当たるため、すでに研究成果の一部を論文化しつつあるが、これを継続し、一定以上の成果を残したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上述の通り、前年、ワシントンのナショナル・ギャラリーおよびニューヨークのメトロポリタン美術館他において、資料調査を行ったが、さらに24年度夏に行う予定であった資料調査が、諸般の事情から困難であったため、24年度の研究費に残額が生じた。であるがゆえに、ヨーロッパにおけるイメージ調査も、依然として十分ではない。そのため、平成25年度分の直接経費も、当初予定通りの額面を申請し、主に海外出張経費として、24年度分の残額に加えて、これを執行したい。「研究実施計画」にも述べたように、実際にはアリエスの扱った表象を検証するだけでも膨大な量になってしまうが、最終年度に当たる本年は、可能な限りヨーロッパにおける死の表象の収集に努めたい。
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Research Products
(2 results)