2011 Fiscal Year Research-status Report
家のイデオロギーを掘り起こす―郊外小説から見た社会とコミュニティの断面図
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23652062
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大石 和欣 名古屋大学, 文学研究科, 准教授 (50348380)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 建築 / 郊外 / 共同体 / 都市化 / 郊外小説 / ロンドン / 郊外住宅 / 都市文学 |
Research Abstract |
初年度にあたる本年度は、前半6か月を基本的な文献調査に費やした。とくに19世紀後半に顕著になってくるイギリス都市の郊外化に焦点を当て、その歴史的変遷を示唆した文献を渉猟した。二次資料としてH. J. DyosのVictorian suburb: a study of the growth of CamberwellやDonald OlsenのThe Growth of Victorian Londonなどの古典的研究を手掛かりとして歴史的な研究を俯瞰し、同時に近年の研究成果を手掛かりとして歴史的な研究を俯瞰し、ロンドンの南北に加速度的に広がっていく郊外化の様子を考察した。 後半は郊外小説や関連する作品を読み進めて、上述の郊外化の過程を文学作品の中に追跡した。著名なGeorge and Weedon Grosmith, George Gissing, H. G. Wellsや E. M. Forsterを別にすれば、国内に所蔵している図書館はほとんどない。そのため、古書の形でWilliam Pett Ridge、Keble Howard, Arnold Bennettらの作品を購入し、まだ知られていない郊外を舞台にした小説を重要資料として調査と分析を進めた。とくに不特定の人々が同じ地域に住むことで形成されていく不安定な郊外コミュニティが、19世紀的な都市文学ともまた田園の文学とも異なる新しいリゾーム的な人間関係を築きながら、そこに安住の生活空間を見出そうともがく中流階級意識を探究した。その意識が郊外住宅の描写に明瞭に浮かび上がっていることを考察した。また、日本における郊外化の問題を19世紀末の東京で考え、足立区北千住地域に焦点を当てて実地調査を何度か行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、19世紀末から20世紀前半のイギリス文学に見られる居住環境や建築物の表象を研究対象に据えることで、これまでの文学史では看過されてきた郊外小説を中心とする文学作品群を掘り起こし、同時代の文脈と併置しながらその社会的な意味を明瞭に浮かび上がらせることを目的とする。本年度はArnold Bennett, William Pett Ridge, Keble Howardによる郊外小説を読解すると同時に二次資料を中心に郊外化の歴史的文脈をたどった。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目の資料分析と現地調査に基づいて郊外小説から解読できる郊外の社会的位置づけを行い、社会史や建築史の領域にさらに踏み込んで立証していく。未収集の郊外小説については調査を継続しながら、郊外のユートピアという神話を構築していく要因となった思想や言説についても調査を進めていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度予定していたロンドン郊外の現地調査ができなかったため、未使用の直接経費422,679円を旅費として用いて夏期に現地調査を行う。また、関連するイギリスの学会への参加も予定する。同時に、郊外小説についての資料購入も継続し、購入できないものについては2~3月に渡英して資料調査を行う予定である。
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