2011 Fiscal Year Research-status Report
日系ディアスポラのコミュニティ、言語使用規範、アイデンティティ
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23652089
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
三宅 和子 東洋大学, 文学部, 教授 (60259083)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 日系ディアスポラ / アイデンティティ / 言語使用規範 |
Research Abstract |
本研究は,近年欧州に渡り自ら望んで永住することを決意した日本語話者を日系ディアスポラと名づけ、そのコミュニティの形成、言語使用規範、アイデンティティの関係を、渡航と永住の動機や滞在期間、現地との親和性、パーソナリティ、ライフサイクルなどを手がかりに探るものである。対象地域はイギリスとし、日系ディアスポラの出自文化と現生活文化の規範の異なりによる言語行動の揺れと判断、自他の対人把握のあり方などの実態を探り、越境する人と物が交差・融合しグローバル化する現代社会の中で、日本人、日本語とは何かを考える。平成23年度は以下の調査・研究を行った。(1)個別聞き取り調査:調査対象の現状を包括的に理解するため,インタビューを行った。まずロンドンにおける日系ディアスポラ最大のコミュニティである英国日本人会の幹部5人を集めてインタビュー談話を収録した。海外在住で日本社会の規範が如何に維持・変容するかを中心に話題を組んだ。さらにオックスフォードの日本人コミュニティーを組織する日本人女性に単独インタビューを行った。永住のきっかけや日本人家族としてイギリスで生きる意味,差別と受容,アイデンティティなどが話題の中心であった。談話を文字化して分析を進めている。(2)ロンドン郊外ヘンドンにある日本人墓地を訪れた。ヘンドン墓地では,様々な文化・宗教背景をもつ人々が集団を作って埋葬されている。その小さな一角を占める日本人墓地の成り立ちと変遷を学ぶことを通して,第2次世界大戦前と戦後において日本人,日本が墓地の中でどのような表象のされ方をしているかを見た。(3)(1)の調査結果を踏まえ,平成24年度のアンケート予備調査の調査項目の選定をしている。(4)文献調査:新移民ディアスポラに関する史的資料を探すとともに,社会言語学における移民言語・言語接触の資料等を中心に関連文献を調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)個別聞き取り調査: 2件の聞き取り調査を行った。調査対象者たちは,イギリスに長期間在住する中でも,日本人としてのアイデンティティと言葉の保持が強く意識されていることが分かった。しかしイギリス南部に住む中産階級の日本人に限定してみても,その渡英の動機や目的は千差万別であり,渡英後の生活環境も多様である。この多様な人々に共通するものと異なりを見せるものを,言語とアイデンティティをめぐってあぶり出せるような調査を図っていかなければならない。そのためには引き続き聞き取り調査を対象者を変えて行っていく必要がある。 (2)アンケート作成のための予備調査: 23年度は聞き取り調査を分析してアンケート調査の項目を絞りこみ予備調査を行う予定であったが,項目を選定しきれていないため,24年度に継続して行う。 (3)恒例行事への参加を通してコミュニティの性格を把握 学務が多忙で渡英できる期間が限られていたため,恒例行事との日程が折り合わず参加は果たせていない。(4)移民史,移民言語・言語接触研究などの調査: 少しずつだが蓄積が出来つつある。移民言語研究の例会などに参加して情報を集めている。 以上,23年度の研究予定に照らせばやや遅れているが,今後の研究の手がかりとなる調査は行えているため,これを基盤として次のステップに向かうことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度は以下の研究を推進する予定である。(1)アンケート調査実施: 本調査の前段階としての予備調査を行う必要があるが,これは夏季休暇中に渡英して行う。この予備調査を踏まえて,冬季に再度渡英し,ロンドン、オックスフォードにおける2つの性格を異にする永住日本人の相互扶助コミュニティを対象としてアンケート調査を実施する。(2)恒例行事や月例会などへの参加: 夏季休暇を利用して恒例行事の一つに参加する。コミュニティの方々と身近に接することで,その在り方を深く理解する。可能であれば冬季のアンケート調査時にも別の行事に参加する。(3)アンケート調査の整理、集計、結果の把握: 謝金のアルバイトを雇って作業補助を得ながら進める。(4)在英日本大使館,英国国会図書館での資料収集
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
繰越額が発生した理由は「現在までの達成度」に記載した通りである。24年度の予算は,昨年度の予算の繰り越しを含め607,493円である。これは2度の渡英と滞在費でほぼ消化されてしまう額である。なるべく航空運賃の安い時期を選んで渡航することで経費を節約し,情報整理が円滑に行われるようにアルバイトが雇用できる余裕を残したい。
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