2012 Fiscal Year Research-status Report
日系ディアスポラのコミュニティ、言語使用規範、アイデンティティ
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23652089
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
三宅 和子 東洋大学, 文学部, 教授 (60259083)
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Keywords | 日系 / ディアスポラ / ライフ・ヒストリー / アイデンティティ / 言語使用 / コミュニティ / 互助 / 永住 |
Research Abstract |
戦後の高度経済成長期と前後して欧州に渡り永住することを決意した日本語話者を、本研究ではハワイやブラジルなどの「日系人」と区別して「日系ディアスポラ」と名づけ、そのコミュニティの形成、言語使用規範、アイデンティティの相互関係をさぐっている。その関係は多層的かつ複雑であるが、渡航と永住の動機や滞在期間、現地との親和性、パーソナリティ、ライフサイクルなどとの関連が深い。対象地域をイギリスに絞り、24年度は特に社会的背景の調査、個人のライフ・ヒストリーの収集を中心に研究を進めた。主な活動は以下の通り。 (1)移民学会大会や国内の移民調査研究、海外の移民調査研究のシンポジウムなどに参加し、国内外の移民研究の動向を把握した。(2)海外の移民研究、「グローバル化に伴う人の移動」研究、ディアスポラ研究などの文献を収集し、世界の研究動向に照らし合わせて本研究の位置づけを考察した。(3)イギリスの日本大使館、日本クラブなどを訪れ、イギリスにおける日本人定住者の歴史や活躍の記録、発行された日本語新聞などの背景となる資料を閲覧した。(4)夏期にロンドンの日本人互助コミュニティ(英国日本人会)の会長と創設者の1人にインタビューを行い、創設の経緯、現状、今後の計画などともに、個人的なライフ・ヒストリーも調査した。(5)冬期には比較的初期にイギリス人と結婚して英国に渡り永住した高齢日本人女性10名に長時間のインタビュー調査を行い、ライフ・ヒストリーの収集、言語使用、互助活動などの実態を調査した。 このような調査・研究を通じて、イギリスにおける「日系ディアスポラ」の実態が少しずつ明らかになってきている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
24年度に研究の軌道修正を行った。主な研究対象としていた英国日本人会にアンケート実施前の許可の再確認したところ調査の延期を要請されたためである。詳しい事情は説明されていないがアンケート調査に対する一部会員の何らかの危惧が背景にあるようだ。今後参与観察を続け状況を見て新たな機会を求めたい。この状況変化を受け、今後は対面による長時間インタビューを実施することとした。量的調査をいったん保留にして質的調査で対象に迫るアプローチである。インタビューはすでに収録していた会長と創始者の1人に行ったものに加え、イギリス人と結婚してイギリスに永住している初期の日系ディアスポラ10名のライフ・ヒストリーを調査。多様な渡航理由や夫との出会い、社会的背景、イギリスでの生活などを通して、日系ディアスポラの言語生活・言語行動の多様な実態が少しずつ明らかになってきている。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度の研究計画は以下の通り。夏の海外調査(1)(2)(3)(4)が効率よく実施できるように国内での準備を整え、調査・研究の結果は公開し、研究発表を積極的に行う予定である。 (1)前回のインタビュー調査で対象が不足していたと思われる、第2集団(高齢・未亡人・子供なし)の対象を増やしてインタビューを行う。(2)イギリス人と結婚し永住している高齢者と比較するため、イギリス人と結婚してイギリスに住んでいる比較的若い子育て世代にインタビュー調査する。(3)在英日本大使館、日本クラブなどでの資料収集。(4)引き続き英国日本人会の行事参加、夏に開催されるJapan Matsuri行事への参加を通して日系ディアスポラコミュニティ形成の理由と推進の原動力、およびその言語行動を考察する。(5)以上の結果を踏まえ、日系ディアスポラの個人の差、時代の差を超えた類似性、異なりを考察する。また、インターネットやTVなどのメディアの利用が日系ディアスポラの言語生活にどのような影響を与えつつあるかも考察する。(6)調査と考察の結果を社会言語科学会、東京移民言語フォーラムで発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
直接経費として600,000円+昨年度からの繰越金2,011円=602,011が計上されている。 繰越金2,011円は、希望する書籍が当該額予算内のおさまらなかったため、やむなく繰越した。25年度の使用計画は以下の通り。夏の海外調査と滞在の手当てとして「旅費」が中心の執行となる。インタビュー調査データの第1次文字起こし作業をお願いするために「謝金」の経費を計上した。調査にできるだけ多くの経費が割けるよう、「物品費」として、研究結果とデータの公開のためのCD-ROMと文具、「その他」を0として計上した。 物品費(10,000円)、旅費(402,011円)、謝金(190,000)、その他(0)、計602,011円
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Research Products
(2 results)