2011 Fiscal Year Research-status Report
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23652091
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
神田 和幸 中京大学, 国際教養学部, 教授 (70132123)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 手話 / 古手話 / 補聴サイン |
Research Abstract |
本年度は以下のような学会発表をし、評価を受けた。[1}神田和幸・大杉豊, 1901年から2011年に至る日本手話の歴史的変化のデータベース, 手話の歴史言語学,第20回国際歴史言語学会(ICHL2011),大阪,(2011.7.28)[2]神田和幸・木村勉,手話研究の方向変換への提言,電子情報通信学会技術研究報告. WIT, 福祉情報工学111(174),pp.31-36, (2012.8.4)これらの発表の前提として、関西地区、鹿児島、新潟の聴覚障害者に面接調査し、また鹿児島の古手話の文献を調査し、多くの人々の協力をえて、その復刻に努めたが、その成果は好評を得た。この鹿児島の古手話の発見は文献調査の副産物で偶然的なものだが、結果として、古い日本の手話の形の変化過程がわかり、新しく創造しようとする補聴サインの構造を考える上で非常に参考となった。古手話にはジェスチャーを起源とすることが明白な手話が多く含まれ、それが標準化されていく過程で、省略化、中心化していくことが明らかになった。つまりは補聴サインは、このプリミティブな形態が聴覚障害者にとって理解しやすいのであり、複雑な情報伝達が必要になってきた現代社会とは反対に、高齢者のような日常のコミュニケーションが必要な人々で、しかも新たなに高度な手話が学習しにくい人々にとって、何が「やさしい手話」なのかを考える上で大いにヒントとなったといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は調査が中心であり、聞き取り調査、文献調査については、おおむね初期の目標を達成できたと考える。しかし、面談に多くの時間を費やし、また録画の同意を得るには一定期間の交流によって初めて得られるのであり、難聴者手話の録画については、期間内に収録できたが、語彙分布や文法分析には至らなかった。難聴者手話と日本語対応手話との差異は先験的に明確であり、また日本語対応手話に対する聾者側からの偏見が強いため、新たに「ハイブリッド手話」という名称を創案し、講演会などで評価を聞いたところ、好評であった。補聴サインと並びこの表現についても今後普及を目指す新たな目標が追加された。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は補聴サインの実例を作成し、教育システムを構築しなくてはならない。同時に日本語と併用するハイブリッド手話の概念、そして補聴を支援する補聴サインについての概念も普及しなくてはならない。現在、書籍化の案も進行しているが、まだ決定には至っていない。また調査対象がまだ少なく、さらに調査対象を広げて、より熟成度の高いサインを提案していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は調査の継続により資料を増やすほか、(1)頻出語彙の抽出作業:文献調査によって得られた頻出語彙と、実際の発話における頻出語彙を比較する。(2)地域方言的要素の分析:実際の発話では、個人方言や地域方言による独自の表現形が予想されるので、標準形との差異がある場合は、補聴サインの「地方版」としての基礎資料とする。方言性をどの程度採用するかは、評価実験などにより、現地の状況を調べる必要がある。先験的には、補聴サインは日本手話とは異なるので、地域性はなくても良いと考えている。(3)補聴サイン候補の選出:挨拶、数字、指文字など基本情報を、できるだけジェスチャーに近いことを基準に選定する。机上論的試作ではなく、実際に使用された例を抽出していく。(4)補聴サインの学習評価実験:試作されたサイン語彙を、手話技能検定試験結果などと比較し、学習難易度を想定して、いくつかのレベルにわける。実際に学習が容易かどうか、理解度、再生度などを、入門者、初級者、中級者の手話学習者を対象に専門学校で評価実験を行う。これが将来の教育カリキュラム作成の基準となるが、本研究ではそこまでは踏み込まない予定である。成果は出版される計画である。
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