2012 Fiscal Year Research-status Report
日本人EFL学習者の読解指導における文処理と談話処理に関する研究
Project/Area Number |
23652145
|
Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
寺内 正典 法政大学, 経済学部, 教授 (20227507)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
J K Hubbell 法政大学, 経済学部, 教授 (50171088)
飯野 厚 法政大学, 経済学部, 准教授 (80442169)
中谷 安男 法政大学, 経済学部, 教授 (90290626)
長沼 君主 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 講師 (20365836)
|
Keywords | 第2言語文処理 / 第2言語統語処理 / 第2言語音声処理 / 前置談話文脈情報 / 韻律的情報 / 統語的曖昧性 / 統語的複雑性 / 統語処理ストラテジー |
Research Abstract |
文献研究としては、第2言語文処理、第2言語統語処理、第2言語談話処理に関する、2012年度までの研究結果と内外の先行研究結果を比較分析した。 実証的研究としては、袋小路文などの英文の統語処理における困難点の同定と解明を目指した複合的実証分析に4名の研究分担者と4名の研究協力者と取り組んだ。一連の研究結果から、日本人EFL学習者が第2言語文処理・第2言語統語処理を遂行する場合に、困難を生じる要因として(1)統語処理原理に関する要因(2)統語処理ストラテジーに関する要因(3)日本人EFL学習者特有の読解ストラテジーの3つの要因が主に関与していることが認められた。 次に実験参加者の熟達度の差異に関する要因に焦点をあて、各々の困難点との関連性を検討した。その結果、(1)統語処理原理に関わる要因に関しては、熟達度の高い被験者では「曖昧性」に関わる要因の方が「複雑性」に関わる要因と比較すると、より理解しにくいことが認められた。一方、熟達度の低い被験者では、「曖昧性」と「複雑性」に基づく統計的な有意差は認められなかった。(2)統語処理ストラテジーに関わる要因に関しては、熟達度の高い被験者の方が「並列処理」や「即時処理に基づく再分析処理」をより効果的に活用することが認められた。また3つの「再分析処理」の使用を比較すると「選択的再分析処理」の方を、「前方再分析」や「後方再分析」よりも効果的に活用することが認められた。(3)日本人EFL学習者特有の読解ストラテジーに関しては、特に熟達度の低い学習者では、個々人の中間言語文法に特有の、「統語処理的には容認されない構文解析ストラテジー」がより多用される傾向が顕著に認められた。 「読解指導の調査」の予備調査の結果として、統語的に理解が困難な英文の「省察的再読」の指導の場合には、「遅延処理」と「選択的再分析」をより重視して指導する傾向が認められた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)実証的研究:前置談話文脈と韻律的情報の効果に関する研究:前置談話文脈と韻律的情報が日本人EFL学習者の統語解析における曖昧性と複雑性の解消に及ぼす影響に関する実証的研究を実施した。これらの一連の研究結果から、前置談話文脈と韻律的情報は、両情報ともに日本人EFL学習者の統語解析における曖昧性と複雑性の解消に顕著な影響を及ぼしたことが認められた。さらに、統語情報、意味情報、前置談話文脈情報の三種類の情報の影響の度合いを比較した結果、前置談話文脈情報が最も顕著な影響を及ぼすことが認められた。また同様に統語情報、意味情報、韻律的情報の三種類の情報の影響を調査した結果、韻律的情報が最も顕著な影響を及ぼすことが認められた。(2)文処理、談話処理、音声処理に関する読解指導法の調査:大学英語教員(ELECリーディング研究部会研究部員)を対象に、文処理、談話処理、音声処理に関する指導法調査の予備調査を実施した。この予備調査の結果を分析し、GP分析を実施し、また信頼度係数を算出し、調査項目の加除修正を行った。(3)研究書の出版:2012年9月に、寺内正典(編集代表)『英語教育学の実証的研究入門』を研究社から出版した。本書は、後続の研究者が応用言語学などの実証的研究を実施するのに役立つように、研究分担者の中谷、飯野、長沼氏とともに、毎月1回の編集会議を実施し、約1年半の歳月を費やし、本研究の研究成果と研究方法を分かりやすく詳細にまとめたものである。(4)指導法研究:2012年度のELEC大会とELEC公開研究部会で、発展的な内容理解力を育成するために「英語で行う」TBL中心の読解指導の開発に焦点をあて、PBL, CLILの相補作用的な利点も採用し、複雑な英文の正確な理解を目的とした談話処理ストラテジーの効果的な育成を図る指導法、指導展開例、留意点を研究分担者の飯野氏とともに提案した。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)実証的研究:第2言語統語処理における曖昧性と複雑性の解消に関する韻律的情報と前置談話文脈の効果に関する研究:日本人EFL学習者を対象として第2言語の統語処理における曖昧性と複雑性の解消に関する韻律的情報と前置談話文脈の効果の比較分析を実施する。また統語情報、意味情報の効果との比較分析も実施する。さらに談話完成タスクに基づいた言語運用データと統語処理省察タスクに基づいた言語処理データを比較し、日本人EFL学習者の言語運用と言語処理における統語処理ストラテジーの関連性や差異などを数量的且つ質的に比較分析する。第2言語統語処理における英語母語話者データと日本人EFL学習者データとの比較研究:オンラインのインタビュー調査による英語母語話者の言語運用データと、日本人EFL学習者のデータの質的な差異と関連性に関する比較分析を実施する。(2)読解指導法開発:第2言語談話処理ストラテジーを育成する読解指導:これまでの一連の研究成果を踏まえ、CEFR、CLIL, TBL,PBLなどの知見を相互補完的に取り入れた統語処理ストラテジーや談話処理ストラテジーの育成を目指す指導法の開発を行う。特にPDCAサイクルに基づく相互作用的授業分析を実施し、日本人EFL学習者に最適な読解指導に関する具体的な指導手順、指導展開例、指導上の留意点に関する指導法の開発を行う。 (3)第2言語談話処理・第2言語音声処理研究に基づく読解指導に関する実態調査:前回の質問項目(寺内他,2004)に、新たな調査項目を加え、読解指導に関する、教員対象及び学習者対象の総合的なアンケート調査研究を行い、前回の調査との数量的及び質的変化を比較分析する。(4)研究成果の公表:本研究の研究成果を関連研究領域の学会などで継続的に発表し、学会誌や研究紀要に投稿する。また本研究の研究成果報告会を行い、研究成果報告書を作成する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)第2言語統語処理における曖昧性と複雑性の解消に関する韻律的情報と前置談話文脈の効果に関する実証的研究では、データの集計分析作業を行うために謝礼や関連する最新の研究成果や情報を入手するために、研究論文、研究書の購入及び関連学会への参加が不可欠である。第2言語統語処理における英語母語話者データと日本人EFL学習者データとの比較研究では、運用データを収集するための録音の機材と英語母語話者の実験参加者へのデータ収集作業協力のための謝礼、データ分析作業のための謝礼が必要になる。 (2)読解指導法開発:第2言語談話処理ストラテジーを育成する読解指導:PDCAサイクルに基づく実験授業分析を実施するために、授業における教師と学生との英語を中心とする言語相互作用を記録するための録画機材と実験授業者への謝礼、授業分析者への謝礼、授業講評会における講師への謝礼などが必要になる。 (3)第2言語談話処理・第2言語音声処理研究に基づく読解指導に関する実態調査を実施するために、アンケート用紙を郵送し、回収するための郵送費、郵送作業の謝礼などの諸経費、集計分析謝礼などが必要である。 (4)研究成果の公表:研究成果を広く公表するために、一連の研究成果を関連研究領域の学会などで継続的に発表する関連学会への参加費用が必要である。さらに、研究成果報告会を行うために、当該研究領域の第一線の研究者を招聘するための謝礼や交通費などが必要になるとともに、研究成果報告書の作成・刊行費用が必要である。
|
Research Products
(39 results)