2011 Fiscal Year Research-status Report
トランス・ジェンダーの医療人類学、タイと日本の比較研究
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23652198
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Research Institution | Ainogakuin College |
Principal Investigator |
高垣 政雄 藍野学院短期大学, その他部局等, 教授 (70252533)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | トランスジェンダー / 医療人類学 / 東南アジア |
Research Abstract |
文献調査および当初の計画通りフィールドワークを行ないデータの収集を行なった。(1)岡山大学精神神経センタージェンダー外来、(2)バンコク:Churalongkorn大学Preecha Aesthetic Institruteにおいて性転換医療の研修医としてProf. Preecha Tiewtranonの指導を受けた。性同一性障害患者の性別適合施術の研修、外来診療を行なった。世界各国から性転換医療ツーリズムを求めてやってくる当事者や家族等と精力的に交わった。(3)チェンマイ:タイ性同一性障害当事者達の終の住処となっているチェンマイでの当事者へのインタヴュー調査を行なった。(4)性同一性障害に関する国際会議WPATH 2011(9月アトランタ)に参加し各国の研究者と意見交換を行なった。(口頭発表)(1)京都大学ジェンダー論講義「トランスジェンダーの医療人類学」平成23年6月,(2)京都大学大学院人間・環境学研究科文化人類学分野 学位論文計画ゼミ 「身体とジェンダーの狭間で苦悩する性の救済―タイと日本のトランスジェンダー比較研究― 」平成23年12月(ワークショップ)性同一性障害当事者およびご家族、医療従事者向け講演会(科研費補助金プロジェクト (No. 70252533))。平成24年2月18日、於)京都きづ川病院。演者:Prof. Dr. Preecha Tiewtranon, Preecha Aesthetic Institute, Chulalongkorn University、演題「How we develop the sex reassignment surgery in Thailand for 30 years」。当事者やご家族、医療関係者等約30名の参加があった。その他、研究成果は研究者の本務である看護教育にも供されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
性同一性障害の病態を、性転換手術が多く行なわれているタイの病院を主なフィールドとして医師で当事者でもある筆者が研修医となって医療体験することで患者としての当事者の語りを分析し性同一性障害の病態へ還元することで医療としての妥当性を検証出来た。精神的構造に異常が指摘されない『性同一性障害』という"診断名"は、疾患を対象にする医療というより当事者を社会のスティグマから擁護し医学的枠組みの中で安全を確保するための"装置"なのである。性同一性障害に病としての根拠をもとめるような生物学的還元主義を当てはめることで、病でも疾患でもない性同一性障害に疾患性と疾病分類を与え医療化し、逆に疾患として地位が高められ当事者達は水を得た魚の様にそこによりどころを求めようと増々医療を求めるようになる。結果、医療と患者がスパイラル構造となって病を作り上げてく構造がある。スティグマの回避と苦悩の癒しを目的とした装置としての医療化は、性同一性障害を医療に取り込み"患者"を癒すためのグローバルな巧妙な方法となり、疾病のようにローカルな文脈ではもはや語れない。平成23年度に行なったフィールドワークから得られた結果は以下に要約される:(1)男か女かの性別二分法を生物学的エヴィデンスに基づいて根拠がないとした上で、サードジェンダーを批判した。(2)身体とジェンダーの二元性についても生物学的エヴィデンスに従ってジェンダーを身体化出来るとし一元化にむしろ根拠があるとした上で、トランスジェンダーを生物学的必然として性転換医療に根拠を与えた。(3)性転換手術の問題点を明らかにした。(4)ポストトランスの語りの分析は性転換医療を正統化出来るものであった。研究成果の一部はブログ「Transgender Journal」に公開し当事者および一般向けに情報公開している。< http://williumosler.at.webry.info/ >
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Strategy for Future Research Activity |
研究成果は研究者の学位論文(京大博士・人間環境学)や著書にまとめることが本研究の主たる推進方策である。研究最終年度には研究者のタイでの指導医であるProf. Preechaが性同一性障害に関する国際会議WPATH 2013を開催し本研究プロジェクトも積極的に関与するため今年度から準備に係って行く。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度の結果を元に、当初の研究計画通り引き続きタイと日本でのフィールド・ワークを重点的に行い知見を集積する。当事者のライフヒストリーやミニ・エスノグラフィーの集積がまだまだ不十分であり更なる文献調査を行なう。更に、東南アジア地域において性転換医療が行なわれているにも拘らず最も否定的かつ消極的な政策をとる香港やフィリピンでの文献調査や香港大学でのワークショップなどを行なう予定。今年度の研究費も当初の計画通りフィールド・ワークの経費と文献調査費、論文作成費が主な使途であり、使途の変更はない。更に筆者の研究は生物学的構造主義に捕われすぎてはいないだろうか、という危惧が拭いきれない。そこで筆者の研究結果の妥当性を確認する最も良い方法は筆者自らが医療者となって医療実践を通して性同一性障害に介入し続けその効果を確認して行く事が一法と考え、当初の研究計画には無かったのであるが本研究枠の中で京都大学医学部関連病院の協力を得て平成24年3月ジェンダー外来を開設し様々知見をもとに医療の実践を開始し今後の日本でのフィールド・ワークを容易にしている。< http://kyoto-keishinkai.or.jp/kizugawa/gairai/gender.html >
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Research Products
(3 results)