2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23653012
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
岩本 学 富山大学, 経済学部, 講師 (70552511)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 法域 / 抵触法 |
Research Abstract |
国際性を有する法問題が生じた場合、グローバル化、多様化により国境の意義に疑問符が呈される現代においてもなお、未だ国家や国家を構成する州などの地域(法域)の法が準拠法としての適格を有するとの議論が根強い。もっともこの立場も、いわゆる国民国家の生成に伴い、立法管轄が国家の範囲にのみ及ぶものとなったことが契機となって構築されたものであり、アプリオリに存在するものではないと考えられる。従来行ってきた研究ではEU と法域の関係について、法域の場所的な変容の問題として検討を行ってきた。同研究では、法域概念を場所的に捉え国家法の範囲と同視とすべき理論的根拠は明らかとされているわけではないとの結論を得ることができた。それを踏まえ、本研究は、法域に生じている場所的な変容と質的な変容に、現在の概念は対応しうるのかについて、本年度、来年度で検討するものである。 本年度は、上記二つの変容の第一の部分、すなわち、法域の場所的変容の問題を検討することとした。特に次の二点からこの問題についての研究を遂行した。第一は、EUにおける法域との関係について米国の連邦性との関係で研究を進めているSymeonides教授の一連の論文を素材に、米国連邦制での教訓のEU統一法へ参照可能性という、この問題の解決についての大きな手がかりとなる見解の分析を行った。第二に、国際契約法領域における、非国家法の適用問題について、非国家法の適用可能性を示唆する見解を分析することで、法域を場所的に捉えないという見地から、同様に本問題への解答の手がかりを模索した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成23年度半ばに所属の異動が決まったことで、エフォートを当初の予定通り本研究に充てることが困難となり、若干の遅れが生じている。もっとも、予定していた文献の精読・分析については達成できたのであって、検討が遅れた部分は、研究中に生まれた本研究に関する新たな着想についての追加資料についての精読・分析であり、平成24年度にずれこんだ部分はそれほど大部ではないため、来年度でカバーしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度に分析を終えられなかった文献についての検討から開始し、法域と場所的変容の関係につき結論を出した後、質的変容について、分野毎の法体系(独自の法体系として観念しうるかの精査は必要だが、インターネット法など)を用い、比較検討を行うことで、法域の現代的な意義を明らかにする。この分析においては、システム理論と抵触法の関係についてドイツのルーマン見解、及び「レジーム間の抵触法」の理論を提唱するトイブナーの見解などを軸にする。一方、分野毎の法体系の成立の可否については、いわゆる「法多元主義」の議論を手がかりとしてその検討を行い、法域との関連性を明らかにしていく予定である。そして、レジーム間の抵触法と伝統的抵触法における法域概念を比較検討することで、法域概念が従来の意味内容を維持できるかを検証する。仮に、レジーム間の抵触法を現在創設する意義が乏しいとの結論に達した場合でも、前年度検証した結果を踏まえ、新たな法域概念を提示することとしたい。そして、以上の検討結果を年度内または年度終了後にまとめ、新たな抵触法概念を構築する必要性を判断するに際しての理論的基盤の萌芽を提供する。なお、研究の当初は分析軸として加えていなかったが、昨年本研究を遂行中に着想した、法域を巡る国際民事訴訟法上の問題についても、本研究を次々年度以降さらに発展させていくための基盤作りのために、検討していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費については、所属の異動に伴い新たな研究環境の整備が必要なため、前年度繰越しが生じた分について文具・PC関連費に充て、これらの整備を早急に行う。また、書籍については、現所属先の図書館には本研究に必要な図書が不足しているため、収集に努めたい。とりわけ、1950年以前の資料はほとんど蔵書がないため、古書の購入のほか、他大学からの複写物の取寄せ費用に研究費を充てることとする。旅費については、昨年度予定していた海外調査が、上記異動による予定調整の事情から実現できず必要資料について国内で入手できていないものがあるため、前年度分も併せて資料・情報の収集について、欧州で海外調査を実施する予定である。 最新の国内資料については、修了生として入室が可能であり、本研究に関連する多くの蔵書を有していることが判明している東北大学法学部図書室を利用することで、これらの収集に努めたい。
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