2011 Fiscal Year Research-status Report
越境的電子証拠収集と訴訟コスト増加への対応に関する比較法的研究
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23653021
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
金子 宏直 東京工業大学, 社会理工学研究科, 准教授 (00293077)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 電子証拠 / e-Discovery / フォレンジック / 預金者保護 / GPSデータ |
Research Abstract |
本研究の目的は外国からの司法共助によらない外国からの電子的証拠収集・開示(「越境的電子証拠収集」)および訴訟提起前の電子的情報の高度な保存義務等の問題が,訴訟当事者および社会に訴訟コストの増加をもたらしている点を検討することにある.研究の実施方法として,平成23年度は,日本法、諸外国の法律上の検討を行うため,電子証拠に関する専門書とならんで証拠法の基本的注釈書により証拠法源則との関係について整理を行っている.また、これらの分野に影響を与える訴訟支援ビジネスの法律実務の関係について日本での状況を調査した.平成23年度は外国調査として,米国,オーストラリアを予定していたが,英国に関する電子証拠の問題を文献調査に切り替えて行うことにした.具体的には,日本における電子証拠偽造事件のEU法での取扱いの相違ならびに日本における電子証拠のリーディングケースの英語資料を作成するとともに,インテリジェントないしスマート機器(個人認証等を組み込まれた製品)の個人識別情報が盗取された場合の訴訟上の問題点について英国人研究者と情報交換を行った.米国についてはおおよそ過去1年間,例えば,Googleストリートビュー作成時のアクセスポイントと無線ネットワークで接続されたPC間の個人識別情報の収集に対するEUディレクティブとの関係を問題にした判例などの特徴的な電子証拠判例の整理を行った.紙媒体が電子化されたことばかりではなく,GPSデータ等電子データのみ存在するような広範になりつつある電子証拠に対応するように検討を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
米国等の外国調査を予定していたが,文献による調査を中心に行った.その代わり,米国での電子証拠判例の動向と英国での電子証拠の取扱いについて検討を行った.関連する検討結果として,(1)ATMやインターネットバンキングを通じた誤払い込み引き出しに対する預金者保護とその前提になる認証システムの普及について,日本法とEU法,英国の銀行の自主規制についての検討した論文を公刊した.日本では,認証情報のうち,利用者の過失として金融機関の免責となる情報のカテゴリ(生年月日等)を分けているが,英国ではそのようなカテゴリ分けはとられず,誤払い込みが預金者の過失によらない場合でも免責される,不利になる場合がある.(2)米国での近時の電子証拠判例についての調査結果を研究者や訴訟支援サービスを提供する専門家の参加する研究会で報告を行った.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度も文献調査を継続して行う.日本国内での越境的E-discoveryの状況について,訴訟前の交渉の一環として行われ判例や文献では調査が困難であるため,国際弁護士実務の経験の豊富な日本の弁護士へのインタビューを含めた聞き取り調査をおこない,コンピューターフォレンジックを含めた訴訟支援サービス業の利用状況等を把握することを行いたい.EU法のうち,英国法を中心に越境的電子証拠収集についての文献の検討を行う予定である.特に,EU法では,日本法にはない規制を定める各種ディレクティブとの関係について検討を加える予定である.近時活動が盛んであるEUデータ保護指令29条検討委員会での議論の進展を調査する予定である,電子的署名、電子的証拠の問題の専門家と,これまでも電子証拠やIT技術の発展による法的問題について情報交換を行っており,メール及び国際会議においてEU諸国における関連資料や研究内容についての専門的知見を受ける予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の執行額に残額が生じた状況については,会計上の都合であり,既に23年度の経費は支出済みである.次年度については,電子的証拠に関連する書籍資料の購入および,日本人ならびに外国法実務弁護士等へのインタビューを含めた聞き取り調査ならびに整理を行う.旅費は、英国法について研究者・実務家における資料収集・研究打ち合わせに使用する予定である。国内旅費は、研究者との打ち合わせと関連する研究会での報告に使用する予定である。消耗品として、米国の電子証拠法関連書籍,EU法の証拠法関連書籍、電子証拠法の基本注釈書の最新版を購入する予定である。
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