2011 Fiscal Year Research-status Report
リスクに対する政策過程の研究‐新型インフルエンザを事例として‐
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23653039
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
宮脇 健 日本大学, 法学部, 助手 (20551617)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
笹岡 伸矢 広島修道大学, 法学部, 准教授 (70409431)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | リスク / 政策過程 / 新型インフルエンザ / 専門家 |
Research Abstract |
本研究課題は2009年の新型インフルエンザ対応の課題とジレンマを事例に、リスクへの政府の対応とそれを実施する自治体との関係を想定した政策過程分析の理論枠組みの構築を図るものである。 本研究課題では、新型インフルエンザへの中央政府及び地方自治体による対応に影響を与えた要因について、5つの行政対応に着目し、「新型インフルエンザに対する政府の基本方針」及び「政府の基本方針に対する地方自治体の反応・行政対応」という2層構造の従属変数を設定する。政府と地方自治体に影響を与える構造(過去の経験)、制度、アクター(ステークホルダー)という独立変数の3つのレベルを設定し、調査・分析を行なった。 本研究課題の1年目である23年度は、新型インフルエンザの中央政府と厚生労働省の対応について文献調査・ヒアリング調査を行い、新型インフルエンザの対応が、「遅滞」する場合と「過少」の2つに分かれることが明らかになった。 たとえば、「水際対策」で行われる検疫が「遅滞」した原因として、専門家による科学的な知見よりも、世論といった社会的な判断(社会的合理性)を重要視した結果であることが明らかになった。つまり、検疫が新型インフルエンザの蔓延を防ぐうえで科学的に効果がないと言われているにもかかわらず、検疫をやめるという科学に依拠する対応をとらない理由として、日本において感染者が出ていない状況で検疫をやめる選択肢を政府・厚生労働省が世論の検疫へ支持からできなかったと結論付けることができる。患者が出ていない以上、そこで検疫対策を講じなかったがために後で非難をうける不作為過誤回避を政府、厚労省共に避けたかったことが明らかになった。このように社会的合理性が高い対策は「遅滞」することになり、科学的根拠が反映される対策は「過少」な対応になることが現段階において明確になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題において、政府・厚生労働省の事前の対応(例えば、新型インフルエンザガイドライン、行動計画に関する6つの課題の内容の精査と)と事後の対応(新型インフルエンザ対策統括会議議事録、全国紙による政府・厚生労働省の対応と問題点に関する内容精査)を行い、事実関係をまとめた。また地方自治体の事前対応と事後対応については県、各市のHPの新型インフルエンザ対応について可能な限り調べ、事実関係をまとめた。この2つの作業から、事前対応策として機能したものとそうでないものを分別し、「遅滞」、もしくは「過少」ともいえる対応の要因を仮説として構築した。 以上の結果を踏まえ、当時の厚生労働省の新型インフルエンザ対策推進室長である正林督章氏に当時の厚生労働省と中央政府の対応と地方自治体に対する対応についてヒアリング調査を行ない、事実関係の確認を行った。また、当時の新型インフルエンザ対策本部専門家諮問委員会のメンバーであり、政府・厚生労働省の事前、事後の対応について知る、岡部信彦氏にも当時の専門家の議論がどのように政府・厚生労働省に反映されていったのか、ヒアリング調査を行なった。その結果、専門家が政治過程に果す役割や当時の政策決定の問題点や弊害について確認することができた。更に、新型インフルエンザ専門家会議のメンバーであり、新型インフルエンザ対策総括会議のメンバーでもある東北大学の押谷仁教授にも専門家として当時の政府・厚生労働省の評価・地方自治体の対応の評価についてもヒアリング調査を行なうことで聞くことができた。 以上の作業から、政府・厚生労働省と地方自治体を含めた政策過程の流れを確認でき、昨年度行った計画は概ね達成されていると考えることができるため、本年度は地方自治体のアンケート調査になるだけ早く行いたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2012年(24年度)の研究推進方策として、中央政府・厚生労働省の対応については概ね完了しているため、中央政府WGは中央政府の政治家に対するヒアリングとアンケート調査に向けた準備を行いたいと考えている。 地方自治体WGは23年度同様に新型インフルエンザ対応について県・市・特別区の事前対応と事後対応についての精査を引き続き行うことにしている。そこで、中央政府の指示通りに対応していたのか、独自に対応していたのか分類わけを行いたいと考えている。地方自治体WGの対応についての分類が終わり次第、両WGによりアンケート調査紙の作成に移りたいと考えている。アンケート調査は地方自治体に対して、実施する予定である。調査対象は先にも述べたように、ガイドラインを作成するように促されていた都道府県、また、その対応を受けて実質的に市民に対応を促す市(その他強い権限をもつ政令市)、特別区といった、地方自治体に行う予定であり、約800強にたいして実施する。(24年度7月~8月予定) アンケート調査の質問紙(内容)としては1.当時の中央政府・厚生労働省の新型インフルエンザ対応についての評価、問題点、2.当時の自分の属する地方自治体の対応について、また評価と問題点、3.他の地方自治体の対応についての評価と問題点、4.対応するにあたり参考にした法令、海外の情報(WHO)を盛込む予定である。この質問紙調査を行うことにより、地方自治体がどのように中央政府の対応を受け入れていたのか、もしくは受け入れなかったのかという各都道府県、各市対応の差異を数量的に明らかにできると考えている。(24年度9月) 23年の調査結果とアンケート調査を踏まえて、24年10月以降は中央政府WGと地方自治体WGでリスクへの政府の対応とそれを実施する自治体との関係を想定した政策過程分析の構築を試みる予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度は文献・資料研究が中心であったため研究費が残ったが、その残金についてはアンケート調査に関わる費用にあてる予定である。後述するアンケート調査は当初、自治体(市)のみに対して行うつもりであったが、都道府県、特別区にも行い、より質を高めたいと考えている。そのため、印刷費、郵送費などアンケート調査に関わる費用に使用する予定である。 本年度(24年度)の研究費の使用用途として、ほとんど資料文献調査は終了していることから、まだ足りない資料文献に関してのみ消耗品費として計上することにしている。 また、2009年の新型インフルエンザ対応について、実際の対応の決定主体である政治家もしくは内閣官房危機管理室に対してヒアリング調査を行いたいと考えているため、謝金を計上することにしている。 残りの研究費は地方自治体のアンケート調査のためにすべて使用する予定である。アンケート調査には、印刷製本費(アンケート調査の印刷)、地方自治体へのアンケート調査郵送費、アンケート調査返信用切手等の通信費を計上する予定である。また、アンケート調査を行うにあたり必要となるアンケート調査の封入作業、アンケート返信後に必要となるデータ入力等の事務作業に関してはアルバイトを雇い行う予定であるために人件費を計上するつもりである。 最後に、研究分担者である笹岡が遠方にいるため、重要なミーティングの際には帰京できるように旅費を計上することにしている。24年度の研究費の使用計画は以上である。
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Research Products
(1 results)