2012 Fiscal Year Annual Research Report
EU統合における宗教課題とEU加盟国の世俗主義体制の相克
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23653046
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
八谷 まち子 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (40304711)
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Keywords | 世俗主義 / EU / アラブの春 / 脱キリスト教化 |
Research Abstract |
EU統合における宗教的課題を「世俗主義」を鍵として明らかにすることが本研究の目的であった。EUが宗教的課題にいかに対処するかを分析するのに重要なケーススタディとして、2010年12月に惹起されて瞬く間に中東アラブ諸国に広まった、いわゆる「アラブの春」現象がある。最終年度(2012年)では、「アラブの春」が一定の方向性を示しはじめ、それに対するEUの対応の遅さが際立った。すなわち、劇的な体制移行を目の当たりにしつつも、EUは現状を追認するのみでそれまでの政策を変更することはなかった。大方の予想をはるかに超えた展開は、イスラームであり世俗主義を標榜するトルコをモデルとする論が主に欧米から出される状況も作り出した。トルコの存在意義および外交政策の展開とそれがEUに及ぼすインパクトは、本研究の課題の設定を時宜を得たものとした。時事への関心に導かれて、「アラブの春」がもたらすEU・トルコ関係への影響に焦点をあてた論考執筆および日英両語での研究会報告、およびミニシンポジウムを実施した。これらの活動は、主に、EUが標榜する世俗主義によって宗教課題を看過し続けることの困難さを明らかにするものとなった。さらに、ルーバンカトリック大学社会史研究者による宗教の社会における役割の変遷をグローバルな視点から論じた講演会を開催した。支配的な宗教の史的変遷とその時代背景を分析した内容であり、21世紀は「脱キリスト教化」の時代であるとの結論を巡って活発な議論を行った。 EU諸国の宗教と国家の関係は、5か国をのぞいて、政教分離を旨とする「世俗主義」をとっているが、世俗主義に基づく社会的措置はさまざまであり、さらに宗教の位置づけも多様であることが明確になった。EU域内において「脱キリスト教」は明らかであるが、「脱宗教」の流れはなく、「世俗主義」の在り方も多様であり、中立の標榜が新たな対立を呼ぶ危険もある。
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Research Products
(5 results)