2012 Fiscal Year Research-status Report
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23653049
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
町野 和夫 北海道大学, 公共政策学連携研究部, 教授 (20280844)
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Keywords | 規範 / 幸福度 / 進化ゲーム |
Research Abstract |
本研究は,社会の規範形成について考えるために,人間の利他性や互恵性が内生的に形成されるメカニズムを明らかにしようとするものである。ただし,昨年度の実施状況報告書において述べたように,一昨年度に起こった東日本大震災と原発事故を受けて,当初予定していた数理的モデルとは別に,人々の価値観の変化を,個々の人間の内面からだけではなく,家族や地域社会との関係という視点からも考えてみるという方向で研究計画の修正を行った。 具体的には,まず,1960年代から試行錯誤が続けられてきた日本の数々の社会指標や,近年の国内外における幸福度に関する研究をサーベイし,豊かさ指標としてGDPや主観的幸福感を使うことの理論的意味や限界について考察し,その結果は,23年度に本研究担当者が中心となって立ち上げた地域経済経営ネットワーク研究センター(REBN)で行った研究会で報告した。次に,北海道庁が18年度に道民への生活に係る諸分野についての満足度と重要度を聞いた「道民ニーズ調査」と様々な市町村レベルの統計を使って,北海道の6つの生活圏別の豊かさ指標を試作した。この研究会での研究報告と豊かさ指標開発に関する研究については,『地域経済経営ネットワーク研究センター年報』の第2号に掲載された。なお,その後,本年度末に,本研究担当者が関わっている他の研究プロジェクトと共同で,北海道の二地域において,手法は同じであるが,主観的幸福度や家族・友人との絆に関する質問を加えた小規模のアンケートを行い,豊かさ指標の改良を試みた。詳しい分析は次年度に行う予定である。 また,昨年度REBNで行った震災後のエネルギー問題を地域の視点から考える研究についてもフォローアップし,本研究担当者がコーディネーターとして原子力発電の是非を考える,複数の専門家によるセミナーを行い,その内容報告も上記センター年報に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の対象が,人間の利他性や互恵性の形成メカニズムからを考えるという個人レベルものから,家族や友人との絆,あるいは地域としての豊かさという視点で考えるという社会レベルのものにまで広がっており,前者については昨年度までに,神経経済学や進化・学習ゲーム理論,といった研究のサーベイは進んでいたが,今年度も専門誌や日本経済学会の二回の大会(6月,10月)などで最新の研究成果を吸収した。後者については今年度,地域の豊かさ指標の開発を進める中で,最近の幸福度や幸福の経済学に関する研究や,過去の日本の様々な社会指標や国民生活指標の開発の背景にあった社会の豊かさあるいは厚生とは何かに関する研究・議論のサーベイを行った。論文や書籍以外にも,内閣府の幸福度に関する研究会の膨大な議事録や参考資料などから,最新のトピックについて学ぶことができた。また,これらの研究の応用として行った豊かさ指標の開発は,上述のように,既存のデータによる試作を行い,さらに独自のアンケートによる改良の段階まで進んでおり,総合するとおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
豊かさ指標の開発を進めることで,何が人々の幸福度を高めるのか,あるいは地域社会の厚生を高めるのかに関する考察が深められた。これは,人間の利他性や互恵性が内生的に形成されるメカニズムを明らかにしようとする本研究の当初の目的についての,当初は気付いていなかったアプローチとも言える。ある個人の倫理観は,その人の暮らす地域のその時点での社会規範に沿って形成されると考えられるし,地域社会の厚生を低めるような社会規範は長続きしないであろう。個人の利他性や互恵性は,その地域社会の豊かさを促進する望ましい性質として,その社会での規範として形成され定着していくと推測されるからである。本研究の最終年度である25年度には,前年度に二地域で行った豊かさ指数開発のための予備調査の範囲を拡大し,地域社会の豊かさと個人の幸福観,幸福度の関係に関する考察をさらに深め,それが人間の利他性や互恵性として内生的に形成されるメカニズムについてのモデルを考案することを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額4980円は3月に使用した消耗品の費用が計上されなかったためで,実質的には0円である。25年度は,地域別豊かさ指標の開発・改良のため,いくつかの地域での意識調査や,研究成果を各種学会やワークショップなどで発表したり,他の研究者との意見交換したりするための費用が主な支出となる予定である。
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Research Products
(4 results)