2011 Fiscal Year Research-status Report
新興市場の金融政策レジーム:マクロ・トリレンマからの解放
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23653067
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
高阪 章 関西学院大学, 国際学部, 教授 (00205329)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 金融政策レジーム / マクロ政策のトリレンマ / 国内金融市場構造 / 政策波及メカニズム / マクロ金融リンケージ / 東アジア新興市場国 / グローバル金融危機 / 地域金融協力 |
Research Abstract |
グローバル金融危機など、自由な資本移動のリスクが再認識されており、無条件に金融資本自由化を是とする金融政策レジームは、途上国のみならず、先進国についても再検討する必要がある。そこで本研究では、東アジア新興市場を対象として、各国の多様性を明示的に考慮しつつ、高い資本移動性の下でも頑健なマクロ金融政策レジームはどのようなものかを探る。具体的には、新興市場のマクロ金融政策レジーム選択を考察するため、マクロ経済ショックの構造と金融政策の波及メカニズムを実証的に検討する。ショックの構造については、まず、1)対象国のマクロ・バランス(部門別貯蓄・投資)、金融仲介システム、対外債権・債務構造の時系列的変化を把握した後、2)複数の外生ショックがマクロ経済に与える影響を精査し、また、その構造変化と源泉を探る。 今年度は、1)を中心に研究を進め、東アジア新興市場の国際資本市場とのマクロ金融リンケージおよび国内金融システム発展との相互関係を考察した。その結果、(1)外国資本流入の構成はアジア危機前後で大きく変容し、FDI、とくにその域内投資が大きな役割を果たしていること、(2)国内金融システムは外資依存度が低く、金融深化の程度が高いが、民間投資ファイナンスに関する限り、同システムのアジア危機後の回復は実物経済成長と対照的に限定的なものにとどまっていること、(3)今般のグローバル金融危機がアジア危機型の負の影響をもたらす可能性は小さいが、それは上記の金融リンケージの変容によるものであり、国内金融システムの発展によるものではなく、また、アジア危機後の地域金融協力の枠組がグローバル危機で果たした役割は限定的なものであること、などを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者(高阪)は、研究全体を統括するほか、東アジア経済に関する研究蓄積に基づいて比較軸となる欧州新興市場との対照性を精査した。また、連携研究者(小川・佐藤)は国際マクロ・国際金融の知見にもとづき、課題の遂行に協力すると共に、計量分析作業に対して助言を行った。若手連携研究者(新開)らは、それぞれ、担当する対象国のマクロ経済ショックの時系列分析作業に取り組んだ。研究代表者と連携研究者・研究協力者は、2ヶ月に一度程度、定期的に研究会を開催、また、国内出張によって、意見交換・ヒヤリングを行い、また、今年度は本研究経費による海外調査は実施しなかったが、その他の経費による東アジア・米国・欧州などに出張した際には、関係機関・研究者を訪問して資料収集・事情聴取・意見交換を行った。 その結果、初年度である今年度は、まず、対象国のマクロ・バランス(部門別貯蓄・投資)、金融仲介システム、対外債権・債務構造の時系列的変化を把握するため、データおよび関連研究資料収集と事情聴取を行った。上記の「研究実績の概要」はこれらの研究活動の成果であり、そこでまとめた3つの論点はいずれも、従来の議論では明確にされて来なかった、他の新興市場に比べて東アジア新興市場経済のみに見られる特徴をアイデンティファイしたものであり、同地域のグローバル金融危機に際しての頑健性の基礎となる要因として注目される他、これらの構造変化は、従来、非伝統的なものとされてきた、同地域のマクロ政策レジームの正当性・妥当性を示すものとして大きな政策的インプリケーションを保つものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、もう一つの研究課題である、金融政策の波及メカニズムについて研究を進める。マクロ経済ショックの構造変化については、いくつかの先行研究があるが、ここでは、外国需要・地域需要、などの実物ショック、資本フロー・金利・為替レートなどの金融ショックがマクロ経済に与える影響を精査し、また、その構造変化と源泉を探る。日本を含む東アジアと米国の景気同調化、東アジアのショックの分布構造の変化が既に確認されている(Shinkai and Kohsaka, 2009及びHsu, 2011)。 金融政策の波及メカニズムについては、まず、対象国の政策運営の沿革を把握した後、DSGEモデルなどに集約されるパラメータを推計し、シミュレーションによって、同メカニズムの国間比較や時系列的変化を検討する。先行研究としては、EU諸国を対象とした、Sahuc and Smets, 2008等がある。また、Swiston, 2008等の方法を用いて、各国について金融市場の多様性を反映したFCIを作成し、マクロ金融リンケージを精査し、その構造変化と源泉を探る。 研究代表者と連携研究者・研究協力者は、定期的に研究会を開催し、また、国内出張によって、意見交換・ヒヤリングを行う。また、必要に応じて東アジア・米国・欧州などに出張し、関係機関・研究者を訪問して資料収集・事情聴取・意見交換を行う。最終年度についても、研究代表者と連携研究者・研究協力者は、同様の活動を実施する他、暫定的な成果を国際学会等で報告し、さらに、これまで蓄積した知見をベースに、より大型のプロジェクトを組成し、本格的な共同研究を始めるべく、次年度以降の研究計画を策定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度は、外務省から依頼された海外講演旅行の他、国際会議への招請が4回と多く、大型研究プロジェクト(科研S)の最終年度でもあったため、年度後半に予定していた海外調査を延期し、国内研究会の開催も減らして、約40万円を今年度の活動のために繰り越すこととした。これにより、本年度については、国内出張では、成果発表(東京-大阪2回)、研究打合せ(東京-大阪1回)のため、それぞれ、100千円、50千円を、計上する。海外出張については、調査・研究旅費(米国または欧州)および成果発表(東アジア)として、それぞれ、750千円、250千円を計上する。研究実施に必要な人件費として研究補助および専門的知識の提供のため、300千円を、そして研究会開催に必要な会議費として50千円を計上する。以上の結果、次年度の研究費総額は1500千円を予定している。
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Research Products
(6 results)