2011 Fiscal Year Research-status Report
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23653114
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
福井 義高 青山学院大学, 国際マネジメント研究科, 教授 (40322987)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 財務会計 |
Research Abstract |
米国を中心として会計研究は規範論から実証分析に基づく経験科学へと変貌を遂げたとされ、日本の会計研究者もその後を追おうとしている。しかし、モデルと仰ぐ米国では、近年、指導的立場にあると目される少なからぬ研究者が、自立した学問としての会計学の存在意義に対する危惧を表明する事態となっている。本研究は、物理学や経済学など、より「高級」とされる学問分野が会計的思考によって貫かれていることを明らかにしつつ、諸学とくに経済学の応用の場としての会計研究ではなく、社会現象解明のための基礎学問としての会計学に如何なる可能性があるかを探求した。 世界の会計研究をリードする米国においても、会計学会(AAA)年次総会で研究のルーティン化・矮小化が頻繁に論題として取り上げられるなど、会計という学問の基礎を問う傾向が強まっている。そこで、本研究では、これまで進めてきたいわばメタ会計研究ともいえる視点を継続発展させ、自然科学及び社会科学の根底に存在する会計的思考の重要性を念頭において、新たな会計研究の可能性を追求し、一定の成果を得た。 とくに、本年度は、ジョン・サールのいう社会の存立基盤である「バックグラウンド」のひとつである会計的思考が、中世スコラ哲学の系譜にあるオーストリア経済学と深くかかわっていることを明らかにすることができた。 また、しばしば主張される「会計的思考対経済学的思考」の二項対立の問題点を明らかにすることで、伝統的会計概念と新古典派経済学の親和性も確認することができた。 さらに、変動する割引率(資本コスト)の経済・会計研究における決定的重要性を明確に理解することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究のように明確な先行研究が存在しない場合、先行研究のサーベイにより、今後の視点を定めるという通常の方法はとることができない。したがって、まず、サールの社会的・制度的事実論の源流たる19世紀のオーストリア哲学や物理学方法論を含む広範な文献を収集し、その内容を咀嚼した上で整理するよう努めた。その上で、物理学等における会計的思考の存在を明確化し、本研究の方法論的基礎の確立を図った。 加えて、変動する割引率(資本コスト)を鍵概念として、会計情報と市場均衡の関係について考察を進めた。 本研究の途中経過を会計分野のみならず、国内での他の研究分野のワークショップ等でも報告し、様々な視点からのフィードバックを得ることができた。 さらに、現在の会計研究のあり方に危機感を持つ研究者の国際的議論の場として大きな可能性を持つ、アドバイザリー・ボードの一員として参加している学術誌Accounting, Economics, and Law: A Conviviumにも、19世紀オーストリア哲学と密接に関連するオーストリア経済学における所得概念に関する論考を発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の研究で確立した方法論的基礎の上に、科学的思考のバックグラウンドとしての会計に相応しい方法論構築を開始する。主たる分析の対象が会計的思考を基礎に持つ経済活動となるため、会計学・経済学方法論の文献収集及び整理が必要となる。平成23年度と同様、内外の研究者との交流を積極的に行う予定である。 また、引き続き本研究の途中経過を国内外の学会等で報告し、様々な視点からのフィードバックを得ることで、考察を深めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、狭義の会計研究のみならず、経済学さらには物理学にも内在する会計的思考を整理する必要があるため、大量の関連文献(設備備品)が必要となる。作業の効率化を図るため、適宜アルバイトを雇用し(謝金等)、現有パソコンと新規パソコン(設備備品)の両方で同時に作業を行う。 また、最近の研究動向についての情報収集や本研究成果の発表を行うため、国内他大学等研究機関におけるワークショップおよび米国及び欧州会計学会に出席する(国内・外国旅費)。
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