2012 Fiscal Year Research-status Report
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23653114
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
福井 義高 青山学院大学, 国際マネジメント研究科, 教授 (40322987)
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Keywords | 財務会計 |
Research Abstract |
米国を中心として会計研究は規範論から実証分析に基づく経験科学へと変貌を遂げたとされ、日本の会計研究者もその後を追おうとしている。しかし、モデルと仰ぐ米国では、近年、指導的立場にあると目される少なからぬ研究者が、自立した学問としての会計学の 存在意義に対する危惧を表明する事態となっている。本研究は、物理学や経済学など、より「高級」とされる学問分野が会計的思考によって貫かれていることを明らかにしつつ、諸学とくに経済学の応用の場としての会計研究ではなく、社会現象解明のための基礎学問 としての会計学に如何なる可能性があるかを探求した。 世界の会計研究をリードする米国においても、会計学会(AAA)年次総会で研究のルーティン化・矮小化が頻繁に論題として取り上げられるなど、会計という学問の基礎を問う傾向が強まっている。そこで、本研究では、これまで進めてきたいわばメタ会計研究とも いえる視点を継続発展させ、自然科学及び社会科学の根底に存在する会計的思考の重要性を念頭において、新たな会計研究の可能性を追求し、一定の成果を得た。 とくに、変動する割引率(資本コスト)の経済・会計研究における決定的重要性を明確に意識したうえで、しばしば主張される「会計的思考対経済学的思考」の二項対立が根拠のない議論であって、会計的思考がむしろ一般均衡に基づく経済学と密接な関係があることを明らかにすることができた。また、トマス・シェリングも指摘しているとおり、透徹した会計的思考はマクロ経済分析に不可欠であり、現実の経済財政論議においても有用な視点を提供できることを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究のように明確な先行研究が存在しない場合、先行研究のサーベイにより、今後の視点を定めるという通常の方法はとることができない。まず、ジョン・サールの社会的・制度的事実論の源流である中世スコラ哲学及びその系譜にある19世紀のオーストリア哲学、さらには物理学・生物学等自然科学方法論を含む広範な文献を収集し、その内容を咀嚼したうえで、本研究の方法論的基礎の確立をした。さらに、変動する割引率(資本コスト)を鍵概念として、会計と一般均衡に基づく経済理論の関係を考察した論考を公刊した。 本研究の途中経過は会計分野のみならず、国内での他の研究分野のワークショップ等でも報告し、様々な視点からのフィードバックを得ることができた。とくに、会計的思考を一貫させた物価決定理論ともいえる、ジョン・コクラン等が主唱するFiscal Theory of the Price Level (FTPL) に基づく、日本の経済財政状況に関する報告を行った。 さらに、現在の会計研究のあり方に危機感を持つ研究者の国際的議論の場として大きな可能性を持つ、アドバイザリー・ボードの一員として参加している学術誌Accounting, Economics, and Law: A Conviviumに投稿された論文数編の査読を行い、国際的学術交流の一翼を担うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23・24年度に行った方法論的基礎確立及び科学的思考のバックグラウンドとしての会計に相応しい方法論構築を更に深化させるため、会計学・経済学方法論はもちろんのこと、自然科学分野における文献収集及び整理が必要となる。平成23・24年度と同様、内外の研究者との交流を積極的に行う予定である。 また、引き続き本研究の途中経過を国内外の学会等で報告し、様々な視点からのフィードバックを得ることで、考察を深めたい。とりわけ、進化論を中心とする生物学的思考の会計研究への応用可能性を探りたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、狭義の会計研究のみならず、経済学さらには物理学にも内在する会計的思考を整理する必要があるため、大量の関連文献(設備備品)が必要となる。作業の効率化を図るため、適宜アルバイトを雇用し(謝金等)、現有パソコンと新規パソコン(設備備 品)の両方で同時に作業を行う。 また、最近の研究動向についての情報収集や本研究成果の発表を行うため、国内他大学等研究機関におけるワークショップおよび米国及び欧州会計学会に出席する(国内・外国旅費)。
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